IaaSを構築するためのオープンソースソフトウェア(OSS)である「OpenStack」。ウェブサービスプロバイダが自社のサービス基盤として導入したり、ITベンダーが自社のIaaSビジネスそのものの基盤として活用したりするなど、日本国内でも普及の兆しをみせている。OpenStackプロジェクトの創設メンバーで、かつてはOpenStackディストリビューションベンダーでもあったモーフ・ラボを前身とするクラウドインテグレータ(CIer)のアセアン・ラボ(金野諭代表取締役)は、こうした市場環境を踏まえ、OpenStackの教育事業に力を入れている。同社が提供するOpenStackオフィシャルトレーニングとは一体どんなものなのか、実際に体験してみた。(取材・文/本多和幸)

熱弁をふるう金野諭代表取締役「ハンズオン」の体験型トレーニング
アセアン・ラボは、OpenStackを核にしたクラウドシステムのSI、導入コンサルティングを手がけるCIerであるとともに、OpenStackの教育事業も経営の柱に据えている。また、ITベンダーのASEAN地域への進出も支援している。
同社が提供するOpenStackのトレーニングコースは、OpenStackプロジェクトの母体となっている「OpenStack Foundation」が承認したオフィシャルプログラムだ。トレーニングコースは、「概要コース」「システム管理1コース」「システム管理2コース」の三つに分かれる。概要コースでは、OpenStackの概要と主要な機能(コンポーネント)を1日かけて学ぶ。残りの二つは応用編として、導入と設定について学ぶ。システム管理1コースではOpenStackや各コンポーネントの導入方法を、システム管理2コースでは各コンポーネントのパラメータの変更やトラブルシューティングのやり方まで、それぞれ2日間で習得する。
特徴は、「ハンズオン」にこだわる体験型のトレーニングであることだ。とくに、システム管理1コース、システム管理2コースでは、主要コンポーネントの導入や設定をマルチノード環境で体験できる。金野代表取締役は、「すべて日本語で、ハンズオンに特化したトレーニングを提供しているのは当社だけ」と、その効果に自信をみせる。
OpenStackは、低コストで拡張性の高いオープンなクラウドインフラの構築が可能なため、IaaS市場で圧倒的なシェアを誇るAWS(Amazon Web Services)に他のベンダーが対抗するための切り札として期待する向きも大きい。日本国内では、データセンターを保有するITベンダーが、その資産をクラウドサービスにうまく活用しようとOpenStackに注目しているケースが多く、そうしたベンダーに所属するエンジニアが受講者の中心だという。また、SIerなどの営業パーソンが、概要コースのみ受講することもあるそうで、金野代表取締役は、「OpenStackをビジネスにつなげようという国内ベンダーは確実に増えている」と感じている。
OSSのクラウドはOpenStackに集約
残念ながら、エンジニアとしての素養がない記者は、概要コースをメインにトレーニングを受けてみた。二つの応用編コースについては、どんなことをやるのか、さわりだけを体験した。
まず、「OpenStackとは何か」から始まった概要コースの講義で金野代表取締役は、OpenStackの存在意義について、「パブリッククラウドのためのインフラだと思われがちだが、実はプライベートも含め、すべてのクラウド形態をカバーできる。クラウド時代に大切なのは、仮想マシンのオペレーションを人手、つまりコストをかけずに自動化することであり、OpenStackはまさにそのための技術。クラウドサービスを提供する事業者に注目されている理由もそこにある」と説明。「Eucalyptus(ユーカリプタス)」や「CloudStack」など、競合するOSSのクラウドソフトウェアも存在するが、トレンドとしては、OpenStackにニーズが完全に集約されつつあるという。
テクニカルな部分で概要コースの核となっているのは、OpenStackの主要機能を開発する各プロジェクトの解説と、GUIを介したその機能の体験だ。OpenStackの主要プロジェクトと、それがAWSではどの機能に該当するのかを上表にまとめた。
さらに、システム管理1コース、システム管理2コースでは、実際にコンポーネントのパラメータ設定値を変更することで何が実現できるのか、体験的に学ぶ演習が中心だ。
金野代表取締役は、「インタラクティブなトレーニングで、答えを導き出す前にとことん考えることを大事にしている」と、受講者にとってはハードだが、得るものが大きい講座だと訴える。さらに、「SIerなどにとっては、自社クラウド商材の基盤としてはもちろん、クラウド環境で安く早くテストをするための基盤にも使うことができる。OpenStackは、いろいろな活用方法が考えられるので、実際にトレーニングを受けてみると、そうしたアイデアも浮かんでくるのでは」と話している。