あるSIerは言う、「IaaSを利用する案件の9割はAWS(Amazon Web Services)」だと。IaaS(Infrastructure as a Service)/PaaS(Platform as a Service)市場で圧倒的なシェアを誇るAWS。その勢いはとどまるところを知らない。一方、AWSに待ったをかけるべく、IBMやマイクロソフトといった大手グローバルIT企業が本腰を入れ始めた。国産大手ITベンダーも、自社の強みを生かした戦略で突破口を見出そうとしている。迎え撃つAWSに死角はないのか。今、IaaS/PaaS市場の覇権争いが熱い。(取材・文/畔上文昭)
●マーケットシェアは30%超 2006年のサービス開始以来、EC(ネット通販)事業と同様に、採算を度外視したかのような投資を続けるAWS。その投資意欲は衰えをみせない。抽象的な表現になるが、アマゾン・ドットコムが年間売上高7000億円の頃に保有していたサーバー台数と同等の台数を、AWSでは毎日増強し続けている。規模の力によって、IaaS/PaaS市場の覇者を目指すというわけだ。
米国調査会社のシナジーリサーチグループが2月3日に発表した2013年第4四半期のIaaS/PaaS市場調査によると、「マイクロソフトとIBMの急激な追い上げにもかかわらず、AWSはIaaS/PaaS市場の支配的なリーダーである」としている。同調査によると、マイクロソフトとIBMの売上高は前年比約50%増だが、AWSは約65%増だ。AWSのマーケットシェアは30%を超えている。
ではなぜAWSは強いのか。まずはそこから紐解いてみたい。
●先行者利益 「単なる先行者利益ではないか」。競合各社に先駆けてサービスを開始したことが、AWSの強さだとする声は少なくない。実際、先行したことがブランドとなっている点については、競合各社も認めている部分ではある。
ちなみに、アマゾン データ サービス ジャパン 技術本部の玉川憲本部長によると、「競合各社の動向には関係なく、ベストを尽くすことに注力している」とのこと。先行者の余裕か、営業トークか。いずれにせよ、先行者であることがAWSの強さの要因の一つになっている。
●過去40回の値下げ 価格面では、EC事業で培ってきたアマゾン・ドットコムの遺伝子が、AWSにも引き継がれている。
「アマゾン・ドットコムはITではなく、小売りの会社。利益率を高くするよりも、ハイボリューム/ローマージンを求める企業文化である。一般的にITベンダーは利益率を重視するが、それとハイボリューム/ローマージンの世界は調達の考え方がまったく違う。ITベンダーが切り替えるのは簡単ではない」と、玉川本部長はAWSの強みとして企業文化の違いを挙げる。
ハイボリューム/ローマージンの世界では、自分自身の運用コストをいかに下げるかが重要となる。それによってサービスの価格を抑え、多くの顧客を獲得していく。そこで得た利益は投資と値下げに回して、また多くの顧客を獲得していくというサイクルとなる。
AWSが2006年のサービス開始から8年間で実施した値下げは、実に40回を超える。値下げ分は既存ユーザーにも随時反映される。「水道やガスと同様、利用期間中でも最新の料金が反映される。オンプレミスでサーバーを購入した場合とは、そこが大きな違いとなる」と、技術本部 エンタープライズソリューション部の片山暁雄部長は語る。今後もAWSは価格を下げ続けていくことを方針としている。

アマゾン データ サービス ジャパン 技術本部の玉川憲本部長(写真右)と技術本部 エンタープライズソリューション部ソリューションアーキテクトの片山暁雄部長 ●イノベーションのスピード AWSは、新機能の投入サイクルも短い。2013年の1年間で、AWSは280回にもなる新機能をリリースした。「イノベーションのスピードも特徴の一つ。AWSは価格を下げ続けてきたが、最新のテクノロジーも導入し続けている」(玉川本部長)。サービス展開のスピードが重要となるネット企業の遺伝子が、ここにも生かされているというわけだ。
一方で、顧客ニーズ重視のサービス提供であることも強調している。
「ユーザーが、今、本当に必要としているサービスは何か。常にニーズをくみ取って、サービスを提供している。また、使ってもらったらフィードバックしていただき、改善するというサイクルを繰り返している」(玉川本部長)。
●追う側も強気 圧倒的な強さをみせるAWSだが、競合各社も着実にサービスを充実させてきている。「サービス内容は追いついている」「技術では負けていない」と、各社とも譲る気はみられない。AWSからの移行案件も出てきているという。
次ページ以下、包囲網を敷く競合各社の取り組みを紹介しよう。
“コードでつくるサーバー”
──CIerに聞いたAWSの魅力
クラスメソッドが評価するAWS

クラスメソッド
AWSコンサルティング部
ソリューションアーキテクト
都元ダイスケ氏 システム開発事業者であるクラスメソッドは、事業の3分の1がクラウド関連事業というCIer(クラウドインテグレータ)でもある。同社が扱っているのはAWSだ。
「使いやすさ、提案のしやすさで、3年前からAWSに特化している。AWSはサービスのリリースとアップデートが速く、足りないなと思っている機能がリリースされたりする」と、クラスメソッド AWSコンサルティング部 ソリューションアーキテクトの都元ダイスケ氏は語る。同社は、2013年1月にAWSを専門とするAWSコンサルティング部を3人で立ち上げた。それが、現在では15人にまで拡大している。
都元氏がAWS最大の魅力として挙げるのが、「AWS CloudFormation」だ。CloudFormationは、定義ファイルにしたがってAWS上のサービスを自動で構成する機能である。定義ファイルを作成しておけば、何度でも定義した状態をつくることができる。
「AWSのインフラは、コードを書く文化でもある。コマンド、コード、プログラムで環境を用意できる。アプリケーションは、その上にデプロイすればいい」と都元氏。自分の思い描いたサーバーの構成が、コードで実現できるところに魅力を感じている。
現在はAWSに特化した事業を展開している同社だが、AWS以外のクラウドも研究はしているとのこと。競合他社もいずれAWSに追いつく可能性があるからだ。ただ、「今のところはほかに切り替える理由は見当たらない」と都元氏は考えている。
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