台湾の情報サービス業界団体トップが、日本の情報サービス業界と連携したビジネス拡大の呼びかけを強めている。日台の情報サービス業は人的交流が盛んで、ひとたび会合があれば、まるで「同窓会」のような和気藹々とした雰囲気に包まれる。だが、ビジネス面でみれば「ボリュームが目に見えて大きくなっている」とは言いがたい状況で、そこにいらだちを覚えた台湾側が「仲よしクラブから卒業して、実ビジネスへの比重を高めよう」と言い出した格好である。(取材・文/安藤章司)
ソフト・サービスも自由化

連錦漳
副局長 日本近隣のアジア圏における巨大市場は中国/ASEANであり、日本にとっても、台湾にとってもアジア市場で成長を期すには、この二大市場でのビジネスを避けては通れない。とくに台湾は中国と結んだ「海峡兩岸經濟合作架構協議(ECFA=両岸経済協力枠組協議)」の枠組みのなかで、情報サービスやコンテンツなどのソフトウェア・サービス領域においても貿易の自由化を進めている。
ソフト・サービスで中国の貿易自由化が本格化すれば、台湾の情報サービス会社が中国で子会社をつくりやすくなったり、情報サービスを提供するのに必要な各種免許、著作権の保護などが受けやすくなる。台湾経済部工業局の連錦漳・副局長は「WTO(世界貿易機関)加盟国平均の開放度合いを大きく上回る水準」としており、台湾の情報サービス業にとって大きなビジネスチャンスだとみている。ソフト・サービスを巡る貿易自由化については、あまりに開放度合いが大きすぎて「台湾内の中小サービス業を圧迫する」などの懸念から、今年春先、学生を中心とする反対運動が起きたほどである。
具体的には、(1)台湾のITベンダーが中国へ進出するときに、たとえ中国国内で実績がないベンダーでも、台湾国内での実績を中国でも評価対象とすること、(2)ICP(インターネットコンテンツプロバイダ)免許を取得するとき台湾側の出資比率を50%に制限していたのを、55%へ拡大させるなどの措置が受けられること、(3)ゲームコンテンツなどの中国での審査期間の大幅な短縮や著作権保護を従来よりも確実に受けられることなどが挙げられる。
(1)については、台湾での売上規模や実績を中国でも認められるようになれば、中国での政府系も含めたより大きな案件を受注しやすくなる。(2)は、出資比率を55%まで高められれば、台湾側主導でICPサービスを中国で提供する企業の運営が一層やりやすくなる。(3)は、これまで審査に時間がかかったり、審査を通らなかったりしていたコンテンツが短期間のうちに中国市場へ展開できるようになる。審査に時間を費やしているうちに「中国で類似コンテンツが出回っていた」という事態も避けられ、結果的に著作権保護につながるというわけだ。
日米欧を巻き込み勝負かける

五十嵐隆
JISA
副会長 だが、いくら中国の巨大市場にアクセスしやすくなったとしても台湾単独では限界がある。そこで台湾の情報サービス業界が重視しているのが日本や米国、欧州の情報サービス業、ITベンダーとの協業だ。台湾はハードの受託製造の分野では、兆円単位の売上規模を誇る鴻海精密工業や新金宝電通集団のような大手EMS(製造受託サービス)ベンダーが存在感を放つ一方、情報サービスやゲームコンテンツでは「規模や資本力で十分な国際競争力が保てているとはいえない」と、邱月香・中華民国資訊軟体協会(CISA=中華民国情報サービス産業協会)理事長は冷静にみている。
日本と台湾の情報サービス業界は、それぞれ40年余りの歴史をもち、人的な交流も深い。定期的な懇談会で顔を合わせれば「まるで同窓会のように和気藹々とした、あたたかい雰囲気に包まれる」(日系SIer幹部)。残念なことではあるが、政治摩擦によって2011年以来、業界団体同士の公式な交流が途絶えている中国とはあまりにも対照的である。とはいえ、CISAの邱理事長は「仲よしクラブのままではなく、ビジネスでも大きく発展させていきたい」と、中国とのソフト・サービスの貿易自由化を機会に、日本の情報サービス業とのより一層の協業拡大を求める。
CISAと交流関係が深い情報サービス産業協会(JISA)の五十嵐隆副会長兼国際連携委員長(富士通エフ・アイ・ピー相談役)は「JISAは世界各国の業界団体と交流しているが、CISAとは恐らく最も親密な関係にある」としながらも、「情報サービス分野ではいまだ大きな産業連携に至っておらず、友好関係を礎にビジネスを広げたい」と話す。
中華民国資訊軟体協会(CISA)の
邱月香理事長って
どんな人?
邱月香氏は、マイクロソフトなどの認定試験などを手がける翊利得資訊科技(エリートIT)董事長を務めるかたわら、今年6月、女性で初めてのCISA理事長に就任。今年9月にメキシコで開かれた世界情報技術産業会議(WCIT 2014)では、2017年に台湾でWCIT会議を開催することを決めてくるなど、「歴代の理事長に引けを取らない剛腕ぶり」と、台湾ITベンダーの幹部は評価する。日本との関係強化、中国への進出拡大だけでなく、同じ華人文化を共有するマレーシアやシンガポール、インドネシアなどの一部にまたがるASEAN華人経済圏への進出拡大にも強い意欲を示している。