IT系商社の加賀電子(門良一社長)は、今年3月に本社を移転し、それをきっかけに、社内外のコミュニケーションを行う基盤を刷新した。富士通に発注し、営業担当者がスマートフォンを使って相手の在席や外出を確認したり、外出先から内線番号で連絡したりすることができる仕組みを構築。老舗商社がコミュニケーション基盤の刷新に踏み切った狙いはどこにあるのか。海外事業の強化に備えて今回のシステムを導入したという背景がある。
【今回の事例内容】
<導入企業>加賀電子半導体など電子部品からパソコンなどの完成品まで、IT関連製品の販売を手がける。設立は1968年。従業員数は567人(2014年3月31日現在)
<決断した人>加賀電子で総務を担当する仲森友則氏(左)が導入を決め、加賀ソルネットの酒井雅志氏が現場で指揮を執った
<課題>従来型の携帯電話では、相手のプレゼンス状況を確認するなどの際のコミュニケーションが煩わしく、業務の効率が悪かった
<対策>スマートフォンを活用した基盤を構築、ウェブ電話帳からプレゼンス状況の確認ができるようにした
<効果>電話取次業務が減り、外回り営業も社内アシスタントも本業に集中できるようになった
<今回の事例から学ぶポイント>スマートフォンをツールにして、会社の業績を支える営業部隊の負荷を減らし、売上拡大につなげることが大切
スマートフォンで営業活動を支援
商材の流通を担う商社のビジネスは、足で稼ぐという性質のものだ。「本日は、ありがとうございました」。数百人に及ぶ加賀電子の営業担当者は、商談を終えた後、必ず電話を入れて客先にお礼を述べる。これまでは、従来型の携帯電話とノートパソコンを使って外出先で顧客や社内とのやり取りを行ってきたが、複数のデバイスを併用しなければならないという煩わしさがあって、「仕事を効率化するために、スマートフォンを使いたい」という声が現場から上がった。
その声に耳を傾けたのは、加賀電子の総務部総務課で課長を務める仲森友則氏。既存の電話システムが今年、入れ替え時期を迎えることを念頭に置いて、加賀電子グループでネットワーク工事などを手がける加賀ソルネットとともに、2年前から新しいコミュニケーション基盤の導入を検討してきた。せっかくスマートフォンを入れるのなら、コミュニケーションの改善はもちろんのこと、業務処理の電子化も図りたい──。仲森課長は、紙の書類で満杯のキャビネットを目にしてそう考え、複数のベンダーに提案を依頼した。
加賀電子は、ビジネスの新たなフェーズに入ろうと、この3月、本社をIT系商社として「思い出深い」(仲森課長)という東京・秋葉原に移転。これをきっかけに業務の効率化に取り組み、将来は海外ビジネスを強化することによって、事業の拡大を目指す。そんな事情の下、仲森課長は「本社移転」と「海外」を重点項目として、どこのベンダーの提案が最も適しているかの検討を進めた。

東京・秋葉原駅近くにある加賀電子の新本社の社屋。移転をきっかけに、営業担当者にスマートフォンを配布し、外出先から内線番号で連絡することができるコミュニケーション基盤を構築した電話取次を減らして本業に集中
実は、加賀電子は、新本社をどうしても秋葉原に構えたいという思いを重視したが、秋葉原では、グループ会社も含めて全社員が入居できるほど面積が広い土地を確保することができなかった。そんなわけで、場所を分けて、秋葉原と八丁堀の2か所でオフィスをつくることにして、それぞれに従業員を配置したという経緯がある。「そのため、場所を問わずに社員同士で簡単に会話ができる基盤を導入するしかないということを経営層も理解し、予算取りなどに関して支援してくれた」(仲森課長)と語る。
導入を決めたのは、富士通の仕組みだ。スマートフォンで社内外からアクセスが可能なウェブ電話帳から「在席」や「外出」「打ち合わせ中」といったプレゼンス状況を確認することができるもので、業務の効率化を実現する。以前は、営業担当者が会社に電話し、社内アシスタントが対応して状況を確認したが、今回のシステムを入れたおかげで、電話取次業務が減り、アシスタントは資料作成など、本業に集中できるようになったという。スマートフォンで閲覧や処理ができるよう、書類の電子化にも着手し、長年の「紙文化」からの脱却に動いている。
「グローバル」が決め手
では、富士通を選んだのは、なぜか──。現場で導入をリードした加賀ソルネット営業二部営業一課の酒井雅志・課長代理は、「グローバルベンダーだから」と理由を述べる。加賀電子は海外事業を強化するために、今後、各国の拠点でも富士通のシステムを統一基盤として採用することを予定している。「システムは、グローバルベンダーでほとんどの国で製品調達ができるシスコシステムズのハードを使い、富士通自身も海外拠点が多いので、現地で当社をサポートすることができるので安心」(酒井課長代理)とみて、富士通に発注を決めたという。
加賀電子は3月に新本社に引っ越した。それに合わせて、新しいシステムを使いこなすための社員向けトレーニングを実施。活用シーンごとにマニュアルを作成し、どんなときもシステムを問題なく使うことができるよう、後押ししている。仲森課長は、「新しいシステムを使いこなして、国内外でコミュニケーションを活性化し、業績伸長に結びつけたい」としている。(ゼンフ ミシャ)