その他
中国の対日オフショア開発 需要増見込むもコスト構造に限界 “リソースセンター”へシフトか
2015/01/29 20:48
週刊BCN 2015年01月26日vol.1564掲載
中国のオフショア開発が転換期を迎えている。日本国内の深刻なIT人材不足を背景に需要の増加を見込むが、受注側では急激な為替レートの変動と人件費の高騰が進行中。案件の数は多いものの、利益の捻出が困難という不健全な状況に陥っている。コスト削減を主な目的とするオフショア開発はもはや成り立たない。発注側と受注側がWin-Winの関係を構築するためには、コスト削減という固定観念を取っ払い、一定の値上げ要請に応じつつ、柔軟にIT人材を確保するための“リソースセンター”の位置づけでオフショア開発を利用していくことが求められる。(上海支局 真鍋武)
日本のIT技術者不足が深刻化
日本国内のIT技術者不足が顕著だ。みずほ銀行や日本郵政グループのシステム刷新、マイナンバー(社会保障・税番号)制度のシステム構築、日本取引所グループの次期デリバティブ売買システムの開発など、大規模システム案件が続いていることが背景にある。2020年の東京五輪に向けたシステム特需もある。情報処理推進機構(IPA)の「IT人材白書2014」によると、量的にIT人材が「大幅に不足している」「やや不足している」と感じているIT企業は、過去5年間で最高の82.2%。大規模システム案件は、2015~17年にかけてピークを迎えるものが多く、今後ますますIT技術者不足が深刻化する。最大で30万人程度が不足するとの見方もある。
しかしIT企業は、自前で大量の技術者を確保することはできない。特需が落ち着けば、2020年以降は反動で案件数が急激に落ち込む可能性が高いからだ。そこで、日本で賄えない分を、中国の対日オフショア開発会社へ発注して緩和する動きが顕在化してきた。
例えば、総工数20万人月と推定されるみずほ銀行の次期勘定システム構築案件だ。日本本社が中国の対日オフショア開発会社に発注した案件のPM(プロジェクトマネジメント)を事業としているみずほ情報総研(上海)の渡辺伸総経理は、「次期システム案件は、日本本社からの直接発注で5000人月程度、落札企業の日本IBMや富士通、日立製作所などからの間接的な発注も含めると、オフショア開発で2万~3万人月が賄われている」と明かす。このほかの案件も考慮すれば、対日オフショア開発の需要は伸びる。
中国オフショア会社は消極的
しかし、中国のオフショア開発会社は、この状況を手放しで喜んではいない。むしろ、IT技術者の人員規模について「今後も現状を維持する」とする企業が多い。なぜか。主な要因は、対日オフショア開発で採算が取れなくなってきたことだ。中国では人件費の高騰が続いている。例えば、コア北京法人の馬聡総経理は、「現在の新人プログラマの最低月収は10年前と比べて2倍。これに対して、対日オフショア開発の人月単価は、10年前から25万~40万円程度で据え置かれており、もはや25万円では赤字」という。案件によっては、中国のIT企業が日本に発注する“対中オフショア開発”も起きている。人月単価は案件に応じて異なるので、単純には比較できないが、かつて日本の2分の1といわれた中国のIT技術者の人月単価は、沿岸部では円ベースで日本の7~8割のケースが多い。
さらに、ここ2年間で、およそ40%の円安元高が進行。契約が円ベースならば、中国資本のソフト会社は、2年前と比較して元換算の売上高が40%減少し、日系IT企業の現地法人は、円換算した人件費などのコスト負担が40%増えていることになる。
対日オフショア会社は、人件費が安い内陸地域の活用、ITツール導入などによる生産性アップ、開発工程の上流へのシフトといった対策を進めているが、コスト負担の増大は想定を超えるほど急テンポで、従来以上に対策を前倒しで進めなければ利益の捻出は難しくなる。目先の案件が増えたとしても、利益の改善につながらないのであれば、積極的に対日オフショア事業を拡大しないことは自明の理だ。すでに上海や北京の対日オフショア会社では、為替の影響を受けない国内向けビジネスに注力事業をシフトしている。
最優先は人手不足の解消
システム特需を、人件費が安いベトナムなどの新興国で賄うことも簡単ではない。新興国では、日本語が話せるIT技術者の絶対数が中国と比べて少ない。ベトナム情報通信省は、2020年までにIT人材を現状の約30万人から100万人へ増やすことを目指しているが、早急に技術者が必要な日系IT企業の需要を十分に満たすことができるとは考えにくい。
さらに、みずほ銀行など、金融機関向けの大規模システム案件では、高い品質が要求される。対日オフショアの経験・ノウハウが豊富で、技術に長けたIT人材は、まだ新興国にはごくわずかだ。システム特需の発注先は、中国が中心にならざるを得ない。
発注側と受注側が、Win-Winの関係を構築するためのポイントは、今後5年間のシステム特需では、「コスト削減」よりも「人手を借りたい」という要求が勝ることにある。つまり、コスト削減の優先度は低い。ある程度の開発料金の値上げを許容する選択肢が残っていることになる。
みずほ情報総研(上海)の渡辺総経理は、「当社は、ある程度の値上げ要請には応じる方針だ」という。これからの中国のオフショア開発は、コスト削減を主目的とした活用ではなく、人材を柔軟に確保するための、“リソースセンター”としての活用が求められる。
中国のオフショア開発が転換期を迎えている。日本国内の深刻なIT人材不足を背景に需要の増加を見込むが、受注側では急激な為替レートの変動と人件費の高騰が進行中。案件の数は多いものの、利益の捻出が困難という不健全な状況に陥っている。コスト削減を主な目的とするオフショア開発はもはや成り立たない。発注側と受注側がWin-Winの関係を構築するためには、コスト削減という固定観念を取っ払い、一定の値上げ要請に応じつつ、柔軟にIT人材を確保するための“リソースセンター”の位置づけでオフショア開発を利用していくことが求められる。(上海支局 真鍋武)
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