アクサダイレクト生命保険は、インターネットによる直販がメインの生命保険会社だが、「インターネットだけでは顧客とのコミュニケーションを十分に図れない」と感じるようになっていた。直販型生命保険が浸透したことで、ネットの操作に不慣れな人の利用が増えたためだ。不明な点への返答などは、電話窓口を用意することで対応していたが、ネットの操作に不慣れな人から不明点などを聞き出すのも容易ではない。この課題を解消するために、同社が導入したのは「CTI(コンピュータと電話の統合)」であった。
【今回の事例内容】
<導入企業>アクサダイレクト生命保険2008年4月に営業を開始した日本初のインターネット専業生命保険会社。インターネットを通じて、シンプルで値頃感ある生命保険商品を扱う
<決断した人>CS推進部
清水道高 事務企画課長
顧客満足度の推進や情報システムを担当。同社入社以前からユーザー企業で情報システムを担当してきたキャリアをもち、コストパフォーマンスの高い情報サービスの選定を得意とする
<課題>インターネットでの直販をメインとしてきたが、需要が一巡、二巡し、ネットの操作に不慣れな見込み客が増えてきた
<対策>ネットの操作に不慣れな顧客に対応すべく、ネットと電話を融合したCTIシステムを導入
<効果>ネットと電話を併用することで、見込み客とのコミュニケーションの厚みを増すことができた
<今回の事例から学ぶポイント>コンタクトセンターで使っている既存システムにほとんど手を加えることなく、CTIを導入できる
需要一巡で環境が一変
アクサダイレクト生命保険は、2008年の営業開始以降、インターネットを主軸とする生命保険商品の直販(ダイレクト生保)で業績を伸ばしてきた。ネット通販などによる商品やサービスの購入に慣れた人が、利便性の高さや割安感を求めてダイレクト生保に加入する傾向が続いていた。しかし、ネット通販を使いこなすユーザー層の加入が一巡すると、次第にネットの操作に不慣れなユーザー層も、ダイレクト生保がいいといううわさを聞きつけて加入を希望するようになる。するとどうしても「画面操作に戸惑う人が目立つようになった」(アクサダイレクト生命保険の清水道高・CS推進部事務企画課長)という。見込み客が画面操作で戸惑うようでは、契約までもっていくことが難しくなる。この事態を重くみたアクサダイレクト生命保険は、ネットの操作に不慣れな人でもスムーズに保険を契約できる仕組みを検討することにした。
アクサダイレクト生命保険では、以前からコンタクトセンターを用意していて、利用者が必要に応じて電話で問い合わせることも可能だったが、ウェブとの事前の情報連携ができていなかったため、オペレータが問い合わせの内容をゼロから確認しなければならなかった。
この問題を解決するために導入を決めたのがITホールディングス(ITHD)グループのCTIサービス「Callクレヨン」である。見込み客から電話がかかってきたときに、オペレータは「ご覧になっておられました保険商品は……」と、直前に閲覧していたページを共有できるため、対応がスムーズになる。すんなり商談を始められるので「『あ、この保険会社、よくわかっている』と見込み客に好印象をもってもらい、契約へとつなげていく」(清水課長)のが狙いだ。
コール数が1割余り増える
CTIを選定するにあたって悩んだのは、コンタクトセンターで使っている既存システムにできるだけ手を入れたくないという点だった。センターでは営業支援システム「Salesforce(セールスフォース)」を導入しており、これに手を入れるとなると、コストがかさんでしまう。複数のCTIを検討した結果、CallクレヨンならばSalesforceにほとんど手を加えずにデータ連携が可能になることがわかった。

TISの濱本賢一主査(左)と阪本悟主査 具体的には、アクサダイレクト生命保険の見積もりページに「電話で相談」のボタンをとりつけ、見込み客がこのボタンを押すと、見積もりページに紐づく電話番号が画面に表示される。見込み客は、その電話番号を使って問い合わせる。コンタクトセンターのオペレータは、見込み客がどのような見積もりを画面上に出しているのかがわかるという仕組みである。
Salesforce側には「Callクレヨンのリンクボタンだけを取りつけていて、オペレータはこのボタンを押せば、電話をかけてきた見込み客がどの見積もりを出していたのかがわかるようにした」(ITHDグループのTISの濱本賢一・フィナンシャルシステム第2営業部主査)。CTIの仕組みそのものは「すべてCallクレヨン側で行う」(TISの阪本悟・クラウドテレフォニー推進室主査)ことで、システム構築の手間を最小限にとどめた。この方針の下、2014年5月にアクサダイレクト生命保険が導入を決めてから、同年8月には本稼働にこぎ着けた。システム構築にかけたのは、実質2か月という短期間だった。
導入後は見積もりに関する電話の問い合わせ件数が1割余りも増えていて、「見込み客とのコミュニケーションがより密度の濃いものになった」(清水課長)と満足している。(安藤章司)