滋賀県愛荘町は、昨年8月に地方税の電子納税サービスを開始した。町村では全国初の試みだ。地方自治体でも行政手続き・サービスの電子化は加速しつつあるが、類似規模の自治体の状況を横目でみながら、新たなシステムへの投資に踏み切るかどうか慎重に判断しようという雰囲気もいまだに色濃く残っている。そんななかで愛荘町は、2006年の市町村合併以降、情報システム部門の機能も担う管理課が司令塔となり、住民サービス向上に向けたシステム改革に継続的に取り組んできた。
【今回の事例内容】
<導入自治体>滋賀県愛荘町琵琶湖の東部・湖東地域に位置する。2006年に秦荘町と愛知川町が合併して発足。2015年1月31日現在の人口は2万1191人、7441世帯
<決断した人>主監兼管理課長
北川孝司 氏
情報システム部門の機能を兼ねる管理課のトップとして、電子納税導入に向けた素案作成をリード
<課題>住民サービス向上のために、納税チャネルの拡大を継続的に模索していた
<対策>基幹システムの刷新に合わせて低コストでペイジーを導入するとともに、これを地方税ポータルシステムの電子申告と連携させ、地方税の申告・納付を一気通貫でできる仕組みを整備
<効果>納税者の利便性が向上し、町側の収納事務労力の低減にもつながった
<今回の事例から学ぶポイント>システム整備やサービス導入のタイミングを工夫することで、住民にとってメリットの大きい仕組みを低コストで実現できる
基幹系刷新に合わせてコスト削減
愛荘町には従来、町役場の窓口、もしくは指定金融機関の窓口しか税の納付チャネルがなかった。「納税者が税金を納めようと思ったら、わざわざ仕事を休まなければならないなど、不便だったのは間違いない。行政としては、納税しやすい環境を整えるのも重要な住民サービスだし、確実な税の徴収にもつながる。そこで、税の納付チャネルの拡大に取り組もうと段階的に手を打ってきた」と、北川孝司・主監兼管理課長は振り返る。
まず2008年に、固定資産税、町県民税(普通徴収)、国民健康保険税と軽自動車税の4税、そして下水道の使用料、介護保険料(普通徴収)、後期高齢者医療保険料(普通徴収)の計7種類をコンビニ店で納付できるようにした。しかし、最終的には電子納税への対応が必須になるというのが、愛荘町のスタンスだったため、インターネットバンキングにも対応できる仕組みの導入を模索することになった。そこで導入を検討し始めたのが、パソコンやスマートフォン、ATMなどから税金の納付や公共料金などの支払いができるサービス「Pay-easy(ペイジー)」だ。自治体の電子収納のスタンダードとなっているサービスであり、愛荘町にとっても、電子納税に対応するためにはペイジーの導入以外の選択肢は実質的になかったといえる。
しかし、ネックになったのは、導入コストだった。金額が高すぎて、予算化ができなかったのだ。それでも、諦めなかった。「2012年、13年に基幹システムを刷新する予定があった。ペイジーの共同データセンターにデータを送る仕組みを最初から組み込んでリニューアルしたことで、導入コストを大幅に下げることができた」。
申告との連携で電子納税が完成
これにより、前述の7種類の税や公共料金は電子収納が可能になったわけだが、まだ完全ではなかった。法人町民税や、企業などが従業員の給与から天引きしてまとめて納付する個人県民税・町民税の特別徴収分など、申告が必要な税の電子収納には、地方税ポータルシステム「eLTAX(エルタックス)」とペイジーの連携も必要になるからだ。ちなみにエルタックスは、12年度の税制改正により、全国すべての自治体で導入されている。
愛荘町は、エルタックスのシステムをLGWAN-ASP方式で提供するTKCのサービス「TASKクラウド地方税電子申告支援サービス」を導入しており、「電子納税についても、エルタックスのサービス提供ベンダーと契約することになった」(北川課長)として、「TASKクラウド電子納税サービス」の採用を決めた。こうして、昨年8月に、地方税の申告から納税まで、一気通貫でインターネット上で完了できる仕組みが完成した。
企業の顧問税理士などからも電子納税ができるようにしてほしいという要望が多かったこともあって、利用者の反応は良好。ただし、北川課長は「まだまだ電子納税が可能だという認知が広がっていないので、税の収納率が上がったなどの具体的な費用対効果はみえていない」と、課題も口にする。それでも、「納税者の利便性向上はもちろん、長い目でみれば、安定した税収納につながるのは間違いないし、町側の事務労力も削減できる。まずは、納税通知書に電子納税の仕組みのPR文を入れたりして、認知度向上に全力を注ぐ」(北川課長)という。(本多和幸)