商業印刷を中心事業とする東洋美術印刷は、とくに金融、保険業界の顧客から高い支持を受けている。業界特化の課題に精通しているため、企画、デザインを含む問題解決型のソリューション提案が可能で、高い競争力を発揮しているのだ。営業部隊の提案力を高めるために、これまでも営業手法の標準化や顧客情報、案件情報の蓄積・活用を進めてきたが、昨年、さらなる「攻めの営業」に打って出るべく、CRMソリューションの導入に踏み切った。
【今回の事例内容】
<導入企業>東洋美術印刷1935年創業。今年、創業80周年を迎える印刷会社。商業印刷を中心に、出版印刷、事務用印刷、パッケージノベルティ制作などを幅広く手がける
<決断した人>代表取締役社長
山本久喜 氏
攻めの営業に転換するためのIT投資をトップダウンで決断
<課題>オンプレミス、クラウドの複数のツールで顧客情報を分散して管理していたため、入力作業の重複など、業務の無駄が発生していた。また、データを十分に営業活動に活用することもできていなかった
<対策>クラウド型のCRMを導入
<効果>営業部隊の業務効率化が進むとともに、顧客情報管理の一元化により、営業活動に活用するための基礎的なデータが充実してきた
<今回の事例から学ぶポイント>業務部門のトップが、実際の業務プロセスに即したツールの導入を心がけ、自らも汗をかくことで、導入効果は最大化される
顧客情報を一元管理
代表的なレガシー産業の一つである印刷業は、単純に印刷を請け負うビジネスだけでは、なかなか先がみえない状況にある。そうした問題意識を早くからもっていた東洋美術印刷の山本久喜社長は、顧客に課題解決型のソリューションを提案する「攻めの営業」を志向し、そのためのツールも積極的に整備してきた。例えば、「Google Apps」を導入して、顧客への訪問予定や、案件管理のためのExcelファイルを共有していたほか、営業日報や品質管理情報は、ウェブデータベースの「サイボウズ デヂエ」を使って管理していた。
山本社長は、「属人的な営業スタイルを脱して、データをもとに戦略を立て、チームとして攻めの営業をしていくという思想は一貫している。そのために営業手法の標準化を進めてきたし、導入したツールもそれぞれ成果につながっていた」と話す。一方で、さまざまなツールを随時導入することで顧客情報を分断して管理せざるを得なくなってしまい、「営業担当者が複数のシステムに同じ情報を入力しなければならないとか、必要な顧客情報を参照するために複数のツールを立ち上げなければならないなど、課題も顕在化してきた」(山本社長)という。
さらに、BYODも積極的に推進している同社にあって、顧客情報管理に関するシステムで、外出先からアクセスできないものも存在することが大きなネックとなっていた。極端にいえば、営業マンが、情報入力や参照のためにわざわざオフィスに戻るという非効率な動きを強いられるシーンもあったようだ。
そこで山本社長は、顧客情報の管理を集約でき、外出先からも利用可能な、クラウド型のCRMの導入を検討し始めた。外資ベンダー、国産ベンダー、両方のメジャーなCRM製品のほか、既存のPaaSを活用した独自のアプリ構築も検討したが、最終的に、機能とコストのバランスという観点で富士ゼロックスの「SkyDesk CRM」を最も高く評価し、採用を決めた。「Salesforceの7割の機能を3割の価格で提供する」という富士ゼロックスのセールストークが効いたという。
営業部長が自らカスタマイズ
具体的な機能としては、Google Appsとデータ連携ができることが必須だった。スケジュール管理にはGoogle Appsを使い続ける方針だったからだ。さらに、東洋美術印刷は、営業フローの標準化をさらに推し進めてこれをシステムに落とし込み、顧客の属性管理などもCRMで行おうと構想していたため、自分たちでカスタマイズができる製品を求めていた。SkyDesk CRMはこうした要件にうまくマッチした。
驚くのは、営業部隊のトップとしてCRM導入をリードした森本和茂・営業本部営業部長が、カスタマイズも自ら担当したことだ。森本部長は、「結局、ITツールは、使う側に問題意識がなければ役に立たない。自分たち自身で実際の業務に即してつくり込まなければ、使えるものにならないと考えた。SkyDesk CRMはカスタマイズがそれほど難しくなく、やりたいことをすぐに具現化できるというのも大きかった」と話す。さらに、同社は本業で富士ゼロックスのプロダクションプリンタを採用しており、そのサポート体制を高く評価していた。「CRMの導入にあたっても、サポート、保守の体制が信頼できることは重要なファクターだった」(山本社長)という。

SkyDesk CRMのインターフェース 約半年の準備期間を経て、昨年9月にCRMは本格稼働したが、山本社長は、「営業部隊の業務効率化は間違いなく進んでいるし、顧客情報管理の一元化により、基礎的なデータが充実してきた。継続してどんどん情報を集めて営業活動にしっかり活用していく。攻めの営業という思想を実現できるツールを手にしたという手応えがある」と力を込める。森本部長が自ら苦労してつくり込み、試験運用を重ねてさらに現場の要望をフィードバックしたこともあって、営業部隊も抵抗なく日常業務で活用している。また、クレーム情報などは、他部署の部門長にも通知されるので、リカバリの初動が早くなった。
今後、オンプレミスの販売管理システムとの連携を模索し、より幅広い種類のデータを蓄積できるようにしたいと考えていて、継続的なブラッシュアップを行う方針だ。(本多和幸)