【上海発】業績不振を受けて、清算することが決まった日立製作所(日立、東原敏昭社長兼COO)の中国SI子会社、日立(中国)信息系統(HISS)。同社は赤字経営だったことは確かだが、実は清算には前向きな狙いがあった。それは、主要事業だった統合システム運用管理ソフトウェア「Job Management Partner 1(JP1)」などのソフトウェア事業を、ハードウェア事業を得意とする日立数据系統(中国)(HDS中国)に継承することだ。これによって、ハードとソフトの一体型提案や、現地の非日系企業向けビジネスを加速していく。
実は堅調だった「JP1」

松田芳樹
日立製作所
情報・通信システム社
ITプラットフォーム事業本部
開発統括本部
事業主管 昨年12月20日の株主決議によって清算が採択されたHISS。今年2月11日には新規の営業活動を停止し、現在は蠣崎忠康総経理代行の下、清算手続きを進めている。現地従業員約250人は、労働契約を解除される。
事業全体では、HISSが赤字だったことは事実。しかし、日立製作所情報・通信システム社の松田芳樹・ITプラットフォーム事業本部開発統括本部事業主管は、「『JP1』などのソフトウェア事業については堅調だった」と説明する。実際「JP1」は、2012年と2013年の中国ワークロードスケジューリング&オートメーションソフトウェア市場で売り上げシェア3位を獲得するなど、中国国内で着々と存在感を高めていた。清算にあたってソフトウェア事業はHDS中国に継承し、今後も大きく成長させていく。
HDS中国に継承した狙いは、ソフトとハードの融合によるシナジーを創出することだ。約300人の従業員を抱えるHDS中国は、日立の米国子会社、日立データシステムズの中国現地法人で、サーバーや大規模ストレージの販売を得意としている。HISS時代は、ソフトウェアの提案・販売・サポートを単体で行っていたが、HDS中国に継承した後は、ハードウェアと組み合わせることで、商材の付加価値や案件単価を向上できるようになる。例えば、ハードと「JP1」を組み合わせて、自動でシステムの監視・制御ができる高付加価値ソリューションとしての提供が考えられる。
実は、日立は2012年に日本のRAIDシステム事業部とソフトウェア事業部、エンタープライズサーバ事業部を統合して、ITプラットフォーム事業本部を設立しており、海外でも同様の取り組みを進める方針だった。つまり、HISSソフトウェア事業のHDS中国への統合は、もともと織り込み済みだったのだ。
すでにHDS中国では、継承したソフトウェア事業を開始。同事業の人員数は明らかにしていないが、元HISSの従業員を相当数雇用しているものとみられる。HDS中国上海分公司の林朋典・グローバルソリューションストラテジー&デベロップメントソフトウェアプロダクトユニットシニアディレクターは、「HISS時代と同様に、十分な営業・技術・サポート体制を整えている」と説明する。
非日系企業の開拓を強化

林朋典
日立数据系統(中国)
上海分公司
グローバルソリューション
ストラテジー&
デベロップメント
ソフトウェア
プロダクトユニット
シニアディレクター ポイントは、HDS中国が抱える非日系の顧客基盤やビジネスノウハウをソフトウェア事業に活用できることだ。HISS時代は、現地の日系企業がメインユーザーで、非日系企業の開拓も行っていたが、ノウハウは乏しかった。一方のHDS中国は、非日系の顧客が中心。グローバルに約6500人の規模を有する日立データシステムズは、フォーチューン100企業の8割を顧客として抱えており、HDS中国は、こうしたグローバル顧客の中国拠点に対してITサポートを手がけている。さらに、独自に開拓した中国の政府系機関や大手企業の顧客も豊富だ。林・シニアディレクターは、「中国国内でブランド力があって、顧客の認知度は非常に高い」と、HDS中国の立場がソフトウェア事業の営業・マーケティング戦略の強力な武器になることを強調する。
清算には後ろ向きなイメージがつきまといがちだが、HDS中国への事業継承のメリットが大きいことから、日立製作所情報・通信システム社の柴垣幸広・ITプラットフォーム事業本部事業統括本部プラットフォーム販売推進本部担当本部長は、「実際には、日本のパートナー企業の反応はよい。日立とつき合えば、『JP1』単体のビジネスだけでなく、サーバーやストレージと組み合わせて、クラウドやビッグデータ、IoT(Internet of Things)など、社会インフラ関連ビジネスを海外で行えるようになり、非日系企業の開拓もしやすくなるとして、非常に前向きに捉えてもらっている」と説明する。
日立は、今後、グローバル全域でハードとソフトの融合を進めていく方向にある。すでに欧米では実施済みで、今回、中国が統合されたが、残るアジア地域でも、日立アジアと日立インドのソフトウェア事業を、現地の日立データシステムズ子会社に統合していくものとみられる。(上海支局 真鍋武)