「むしろ遅すぎたくらいだ」と、コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)の荻原紀男会長は言う。CSAJは4月1日、日本経済団体連合会(経団連、榊原定征会長)に加盟した。ITの業界団体で経団連に加盟したのは情報サービス産業協会(JISA)に次いで2団体目。CSAJが社団法人として認可を(1986年2月に)受けてからすでに30年の歳月が流れている。このタイミングでの経団連加盟。背後には、クラウド、「IoT(Internet of Things)」、マイナンバー(社会保障・税番号)制度など、日本のソフトウェア産業を取り巻く大きな環境の変化がある。(畔上文昭)
社団法人化30周年

コンピュータ
ソフトウェア協会(CSAJ)
荻原紀男
会長 「CSAJの加盟企業・約500社は、パッケージソフトのベンダーだ。大多数が、クラウド化の流れのなかで自社の事業をどう展開していくかの課題と直面している。加えて、IoT(Internet of Things)の潮流は、ハードとソフトの境界線を消失させる方向へと進み、この動きにどう絡んでいくかも、パッケージソフト・ベンダーの大きな課題になっている」と、荻原会長は指摘する。
CSAJの経団連加盟は、そんな課題と対峙するパッケージソフト・ベンダーを援護する一手だ。
「経団連への加盟を機に、経団連加盟の他業界・業態と、CSAJとの横連携を強化する。これにより、パッケージソフトの新たな展開を模索していくつもりだ」と、荻原会長は展望を示す。
国内ソフトウェア産業の育成・成長・発展支援を目的に創設されたCSAJ。同団体は来年2月、社団法人化30周年の節目を迎える。その長い歴史のなかでは、国から「栄典団体」として認められ、2014年春の叙勲においてCSAJの和田成史名誉会長が藍綬褒章を受章するといった、ソフトウェア産業の社会的地位向上につながる出来事もあった。それでも、「経済界でのIT産業・ソフトウェア産業の発言力はまだまだ弱い」と、荻原会長は判断。経団連加盟の意思を固めたという。
法改正への対応力強化も視野に
CSAJの経団連加盟には、法改正などの情報をいち早く入手するという狙いもあった。
「例えば、マイナンバー(社会保障・税番号)制度についても、CSAJには、行政サイドから何の情報も提供されなかった」と荻原会長は眉をひそめ、こう続ける。
「そうした重要な法改正や政府・行政の動きをすばやく察知するためにも、政府とのパイプが太い団体への加盟がどうしても必要だった」。
マイナンバー制度は、パッケージソフト・ベンダーに与える影響が大きい。本来的には、CSAJの代表者が政府の検討委員会に呼ばれ、早い段階から議論に参加して然るべきだった。実際にはそうならず、政府による“スルー”を受けたのは、CSAJと政府とのつながりの弱さにあったというわけだ。
マイナンバー制度に関しては、CSAJの会員企業が、検討委員会などのワーキンググループに参加していたことから、ことなきを得た。だが、今後も、マイナンバー制度のようにソフトウェア産業に大きな影響を及ぼす法改正・制度が実施される可能性は十分にある。その際に、今回と同じ状況に陥るのは是が非でも回避しなければならない。
「マイナンバー制度のような重要情報は、これからは早期に入手できるようにしたい。パブリックコメントが求められる段階になって、初めて情報を得るのでは手遅れになる可能性もある。その点、経団連の加盟団体なら政府とのパイプも太くなるため、情報入手で出遅れることはないと確信している」と、荻原会長は言う。
CSAJではもちろん、情報の入手だけではなく、日本の政府・経済界への情報の発信にも力を注ぐ。
「あらゆる業界・企業で、ITのニーズと重要性はこれからも高まっていく。その流れを日本のソフトウェア産業の次の成長・発展につなげるためにも、経済界・政府に対して、CSAJから積極的に情報を発信し、また、意見を述べて、ソフトウェア業界の地位向上に貢献していきたい」と、荻原会長は意欲を示す。
「イノベーションをリードするソフトウェア集団」を標榜するCSAJ。経団連加盟で、ソフトウェア産業自体の改革・イノベーションをどうリードしていくのか。その今後に注目が集まる。