近年、ホテルの客室設備として普及が進むVOD(ビデオオンデマンド)サービス。旧式の有料テレビシステムとは異なり、宿泊客が見たい番組を見たいときに楽しめるのが特徴だが、ホテル運営の現場においてはそれだけでない多くのメリットがある。JR東日本グループの日本ホテルも、近年客室にVODを導入したホテル会社の1社だが、導入システムの選定にあたっては「クラウド型」「STBレス」がポイントになったという。
【今回の事例内容】
<導入企業>日本ホテル「ホテルメトロポリタン」「ホテルメッツ」などJR東日本グループのホテルのうち、関東地方の全27館を運営。総客室数は4520室に上る
<決断した人>黒木大輔
東京エリアマネージャー
ホテル改装に合わせてペイテレビシステムのVOD化を決断。現在は「ホテルメッツ渋谷」の支配人を務める
<課題>カード販売型の従来システムは故障が多く、対応に手間がかかっていた。コンテンツがCS放送のため、宿泊客が見たい番組を見たいときに楽しむことができなかった
<対策>ネットフォレストのデータセンターからインターネット経由で番組を配信する「DTVNet VODシステム」と、対応テレビを導入
<効果>使い勝手とコンテンツの改善によるサービス向上、故障対応コストの削減に加え、新たな宿泊プランや観光情報の提供も可能に
<今回の事例から学ぶポイント>サーバーやセットトップボックスの設置が不要なシステムを選択したことで、導入費用削減と利便性の向上を同時に実現
客室で普及広がるVOD
JR東日本エリアの鉄道駅に近い好立地で知られる「ホテルメトロポリタン」「ホテルメッツ」。それらのうち、関東地方の同ホテルを運営するのがJR東日本子会社の日本ホテルだ。ビジネス利用が多い都市部のホテルとあって、周辺の宿泊施設と競争が激しく、常に設備・サービスの充実が求められる環境にある。
ホテルの客室設備として当然の存在となりつつあるものに、VODサービスがある。従来も、衛星放送やケーブルテレビで配信される番組を客室のテレビに再送信し、宿泊客は専用カードを購入するとその番組が視聴可能になる「ペイテレビ」と呼ばれるシステムが使用されていたが、ホテル内でのネットワークの普及とテレビのデジタル化により、近年、ペイテレビからVODへの置き換えが進みつつある。
日本ホテルでも、施設の改装やテレビの更新にあわせて、老朽化していた従来のペイテレビシステムを刷新。2013年からは、同社が運営する18館のホテルメッツのうち6館と、「ホテルメトロポリタン丸の内」で、ネットフォレストが販売する「DTVNet VODシステム」を導入し、サービス向上を図った。
サーバー・STB不要が決め手

ネットフォレスト
景山 伶
VODグループ長 DTVNet VODシステムは、ホテル館内にコンテンツ配信サーバーを置く形態と、ネットフォレストのデータセンターからインターネット経由でコンテンツを配信する“クラウド型”のいずれかを選択できるが、日本ホテルではほとんどのホテルでクラウド型を選択した。ホテルメッツの客室規模であれば、インターネット経由の配信でも館内にサーバーを設置するのと遜色ないレスポンスが得られることが確認できたため、導入費用が安く設置場所の確保も不要なクラウド型に大きなメリットがあったという。
システムの選定にあたった日本ホテルの黒木大輔・東京エリアマネージャーは、「ホテルとしては、『お金を払ったのに途中で再生が止まってしまった』といった不便をお客様におかけしてしまうのが最も恐れるところ。ネットフォレストは単にVODサービスを売るだけでなく、自社で長年ISPやデータセンターを運営していることが、インターネットを介するシステムでも不安なく導入できた理由の一つ」と話す。
また、従来のシステムはチューナーと課金カードリーダーの機能をもつSTB(セットトップボックス)をテレビに接続する必要があったが、DTVNet VODシステムはSTBを用いず、対応した液晶テレビのLANポートにLANケーブルを差し込むだけで設置が完了する。導入を担当したネットフォレストの景山伶・VODグループグループ長は「STBレスのシステムなので、STB・専用リモコン・配線などの導入・構築コストが不要で、メンテナンスも容易になるほか、客室の美観も高められる」と利点を強調する。
女子会利用など客層も広がる
宿泊客の視点からは、見たい番組を任意のタイミングで楽しめるようになることが新システムの主な導入効果にみえる。確かにその違いは大きいが、ホテルのオペレーションにおいても多くのメリットが得られているという。
例えば、機器の故障だ。専用カード決済型の従来システムではカードスロットの故障が多く、宿泊客からのクレームとSTB交換の手間がしばしば発生していた。また、STB用のリモコンは耐久性・使い勝手の両面で評判が悪かったが、新システムでは家電メーカーによるテレビの純正リモコンが利用できることもあって、操作がわかりやすく故障も減ったという。
また、管理PCの操作により、あらかじめ特定客室のVODを無料に設定しておくことが可能。この機能を利用して、アメニティキットなどと同様の宿泊特典として「映画見放題」が付属する宿泊プランを新たに提供するなど、ホテルとしての商品開発にもVODを生かせるようになった。「従来は出張のお客様のご利用が中心でしたが、最近は『女子会』で宿泊されたお客様がVODをご利用いただくといったケースもあり、サービス向上につながっていると感じている」(黒木氏)。
ウェルカムメッセージや観光情報などのコンテンツを配信することも可能なだけでなく、ホテルの情報システムと連動することで、スタッフがリネン室に戻らなくても客室のテレビで清掃済の部屋を確認できるなど、システムの拡張性も高い。日本ホテルでは、今後は観光情報提供や外国語対応などを強化し、客室の画面を活用したサービスの向上を図っていく考えだ。(日高彰)