中国のクラウドベンダーが、グローバル市場に向けて船を漕ぎ始めた。業界最大手のアリババなどが、国外でパブリッククラウドを提供するためのデータセンター(DC)整備を着々と進めているのだ。中国企業の海外進出の増加に伴って、さらに中国のクラウドベンダーの動きは加速する可能性が高い。グローバルのクラウド市場は、競争が激化すること必至だ。(上海支局 真鍋武)
ついに国外の門の扉を開く

アリババグループ
喩思成
副総裁 中国最大手のクラウドベンダーであるアリババグループの阿里雲計算(胡曉明総裁)は、今年3月、初の海外拠点として、米シリコンバレーにDCを開設し、パブリッククラウド「阿里雲(Aliyun)」の北米地域での提供を開始した。5月には、ドバイのデベロッパーであるMeraas Holdingと提携契約を締結し、MENA(中東・北アフリカ)地域に進出。今後は両者の合弁会社を設立して、ドバイにDCを建設する。さらに阿里雲計算は今後、欧州や日本でのDC開設も予定している。
海外進出の幕を切って落としたのは、アリババグループだけではない。「UCloud」を提供する上海優刻得信息科技は、昨年10月に中国クラウドベンダーとして初めて、北米DCを開設した。テンセントグループの騰訊雲計算も、今年4月に初の海外DCをカナダにオープンし、「騰訊雲(qcloud)」の提供を開始している。また、中国最大の総合ICTベンダーである華為技術(ファーウェイ)も、今年7月に初めて法人向けパブリッククラウドを発表する予定だ。同社の徐直軍・輪番CEO兼取締役副会長は、4月に行った2015年度の戦略発表会で、「海外では各地域の通信事業者と協力する」と発言し、当初から海外でのクラウド提供を視野に入れていることを明らかにしている。
要因は中国企業の海外進出増加
中国のクラウドベンダーが、続々と海外に乗り出している背景には、中国企業のグローバル化がある。中国政府が国内企業の海外進出を促す「走出去」戦略を2001年に打ち出して以来、中国の対外直接投資は増加の一途をたどっており、中国商務部によると、2014年は過去最高となる1160億米ドルを記録した。また、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)によると、2014年に中国企業が行った海外でのM&A件数は272件で、前年比で36%増加。企業の海外拠点が成長して、クラウドサービスの利用に対する需要が顕在化してきたわけだ。実際、阿里雲計算や騰訊雲計算は、北米DC開設の一因として、「中国企業のグローバル化の支援」を挙げている。
中国では、このほかにも中国電信や中国聯通、盛大集団、北京優帆科技など、数多くのパブリッククラウドベンダーがしのぎを削っている。今後も中国企業のグローバル化が進めば、それにつれてクラウドベンダーの海外進出も増える可能性が高い。
外資系企業もターゲット
そうなれば、グローバルのクラウド市場は競争が激化することが必至だ。中国のクラウドベンダーは、初期段階では海外の中国企業の開拓を積極的に進めることが予想されるが、決してターゲット層を絞り込んでいるわけではない。事実、阿里雲計算の海外事業を統括しているアリババグループの喩思成・副総裁は、「中国企業を重視するのか、それ以外の企業を重視するのかといった、ユーザーの優先順位はつけていない」と説明。海外事業の基本戦略として、「現地の事情を熟知したローカル企業とのパートナーシップ構築」を挙げている。
また、中国政府は現在、中国から欧州までをつなぐ新経済圏を構築し、経済や貿易の拡大・強化を図る「一帯一路」構想を推進している。この経済圏は、陸路の「シルクロード経済ベルト」と、海路の「21世紀海上シルクロード」の2地域で構成。中国企業は国の政策に歩調を合わせる傾向が強いため、今後は「一帯一路」の沿線上地域への進出増加が予想される。そして、「21世紀海上シルクロード」の沿線上地域には、まさに近年、日系ITベンダーが積極的に進出している東南アジアやインドが含まれている。こうした新興国市場のローカル企業は、IT投資に多額の予算をかけられないところが多い。高品質なサービスを提供できる日系ベンダーに対して、中国クラウドベンダーが、安価にサービス提供できることを全面的にアピールしてくる構図が浮かび上がってくる。