【淳安発】アリババグループの阿里雲計算(胡曉明総裁)は、浙江省淳安県の千島湖に、新たなデータセンター(DC)を開設し、9月8日、報道メディア向けに初めて公開した。千島湖DCは約3万m2の延床面積、サーバー5万台の収容力をもち、浙江省では最大規模のDCとなる。(上海支局 真鍋武)

王堅
CTO 千島湖DCには、構成要素に独自仕様のファシリティや冷却システムを採り入れた。これによって、エネルギー効率を示すPUEは平均値で1.3、水の使用効率を示すWUEは0.2未満に抑えた。DCの設備品質は最高位のTier 4レベルを実現している。
アリババグループの王堅・CTOは、「千島湖DCは、技術・環境の両面で意義が大きい。大きな挑戦が詰まっている」と説明する。その最たるものが、独自の冷却システムだ。一般的な水冷却方式とは異なり、湖の周辺にDCを建設した利点を生かして、地下60mの地下水を汲み上げて冷却水として使用する。水温は通常時で17度程度のため、9割方の時間は電気冷却装置を必要としない。これによって、電力コストを大幅に削減することができる。省エネで環境にやさしい冷却システムというわけだ。
サーバールーム内では、ラックやプラグなどの構成要素を自社で設計開発した「AliRack 2.0」を採用している。これは、大規模なDCリソースを必要とするアリババ、百度(Baidu)、騰訊(Tencent)の3社が中心メンバーとなって、DCファシリティの技術標準化を進めている開放数据中心委員会(ODCC)が策定した「天蝎2.0」規格をもとに設計した。「AliRack 2.0」では、従来比10倍の速さでサーバーを調達できるようになったほか、30%の省スペース性を確保している。

新たに開設した千島湖DC さらに、ポッド単位で構成される「Alibaba Data Center Modules(ADMs)」も自社設計した。モジュール化によって、調達期間を従来の4か月から45日程度に削減できる。また、ストレージにも自社設計の「AliFlash storage」を採用。データ読み書きの速度を70%向上することに成功している。
阿里雲計算が高効率で環境にやさしいDCの整備を進める背景には、今後も大規模なリソース拡張を予定していることがある。調査会社のIDCによると、2014年の中国パブリッククラウド市場規模は、前年比61.9%増の9.03億米ドル。同年の米国の市場規模の3%にとどまる数字だが、15~18年の世界クラウド市場規模が年平均26%で成長するのに対して、中国の年平均成長率は45%と高い伸びが見込まれている。
阿里雲計算は、今回の千島湖を含めすでに中国本土に5拠点のDCを保有しているが、王CTOは、「張河口(河北省)のDC開設を検討している。今後も自然環境を考慮したDCをつくりたい」と構想を明らかにしている。また、今年8月にアリババグループは阿里雲計算に対する10億米ドルの追加投資を発表済みだ。
阿里雲計算のクラウドサービス「Aliyun」は、09年に提供を開始し、すでにユーザー数は180万を超えた。中国国内では、いまだTier 2~3レベルのDCが大部分を占めており、Tier 4は少ない。阿里雲計算は、高効率で環境への負荷が小さいDCの整備によって、大規模リソース拡張時のコストを低減するとともに、社会貢献をアピールすることで、ユーザーを取り込もうとしている。