米オラクルは、10月25日から29日までの5日間、米サンフランシスコで年次イベント「Oracle Open World 2015(OOW)」を開いた。例年通り2回の基調講演をこなしたラリー・エリソン会長兼CTOは、今期(2016年5月期)中にSaaSとPaaSを合わせた売上規模で、トップベンダーのセールスフォース・ドットコムを越えると宣言するなど、クラウド時代の覇権を奪取すべく怪気炎を上げた(『週刊BCN』1603号で既報)。そうしたトップのメッセージを裏付けるべく、イベント期間中、オラクルのクラウドビジネス拡大に向けた多くの情報がサンフランシスコから発信された。(取材・文/本多和幸)
クラウド特化の独立したパートナープログラムを発表
既存パートナーのクラウドシフトを強く促す
●四つのカテゴリに分類 
ショーン・プライス
シニア・バイス・
プレジデント 今回のOOWでは、パートナー戦略に関して大きな発表があった。既存のパートナープログラムである「Oracle Partner Network(OPN) Specialized」と対になる、クラウド特化の独立したパートナープログラムを来年2月にスタートさせるという。昨年のOOWでも、新規パートナーをクラウドの販社として取り込み支援する無償参加可能なコミュニティをつくる「OPN Cloud Connection」と、オンプレミスで利用しているライセンスをクラウドでも利用できるようにする「Oracle Customer 2 Cloud」などのクラウドに関する新しいパートナー戦略が発表されている。しかし、今回発表された新たなプログラムは、既存パートナーにクラウドビジネスへのシフトを本格的に促すものであり、そのインパクトは昨年の発表とは桁違いに大きい。
まず、現在のOPN Specializedについておさらいすると、ダイヤモンド、プラチナ、ゴールド、シルバーの四つのカテゴリにパートナーは分類される。ダイヤモンドから順に、より広い範囲のオラクル製品について専門的な知識・ノウハウをもっているパートナーということになる。当然、上位カテゴリのパートナーほど参加要件は厳しいが、オラクルから手厚い支援を受けられる。
OOW 2015で発表されたクラウドのパートナープログラムは、OPN Specializedと同様に四つのカテゴリが設定されている(写真参照)。最上位が「クラウド・エリート」、次いで「クラウド・プレミア」、「クラウド・セレクト」、「クラウド・スタンダード」と続く。さらに最も手軽なエントリープログラムとして、「クラウド・レジスタード」も設ける予定だ。このレジスタードは、新しいパートナーに初期投資なしでクラウドビジネスを始める機会を提供するものとのことで、OPN Cloud Connectionを補完するものと思われる。

新しいクラウドパートナープログラムの位置づけ このプログラムは、SIer、ISV、VARなど、パートナーの種類を問わず共通で適用される模様だ。SIパートナー向けのセッションで新クラウドパートナープログラムに言及したショーン・プライス・オラクルクラウド担当シニア・バイス・プレジデントは、「皆さんの戦略は、最終的にオラクルの方向性に合わせてもらう必要がある。それはつまり、クラウドにシフトしてほしいということ。私たちはいま、キャリアのなかで一度しか起こらないレベルの大変革のさなかにいることを意識してほしい。この18か月から24か月の間に、クラウドの勝者、敗者がはっきりするだろう。オラクルのクラウド製品に対する市場のニーズは間違いなく大きいが、ビジネスとして成功するかどうかは皆さんにかかっている」と、かなり強い言葉でパートナーを叱咤激励したという印象だ。
●「パートナーは二つの要素で定義される」 
ペニー・フィルポット
グループ・バイス・
プレジデント また、新クラウドパートナープログラムの概要について説明したペニー・フィルポット・ワールドワイドアライアンス&チャネル・パートナーサービス担当グループ・バイス・プレジデントは、「クラウドの旅のどの位置に皆さんが立っていて、どこに進もうとしているのか、きちんとわれわれも理解して手助けをしたい」と、意図を説明。そのうえで、「これからオラクルのパートナーの皆さんは、二つの要素でブランディングされることになる。例えば、“OPN Specializedのプラチナパートナーかつクラウド・プレミアパートナー”というようなかたちだ」と、今後のパートナープログラム全体のあり方を示した。
新クラウドパートナープログラムは、16年2月1日に正式にローンチされる予定で、「その時点でどのカテゴリが皆さんにとってふさわしいのか、オラクルから提案することになる」(フィルポット・グループ・バイス・プレジデント)という。クラウドビジネスの売上規模やエンジニア、セールスなどのリソースの規模はもちろんのこと、特定分野に絞ったクラウドソリューションを構築できていたり、独自のクラウドアプリケーションをもっていたりと、クラウドビジネスで明確な強みをもっているかどうかが、カテゴリ分けの重要な基準になる。
なお、来年5月までは、新クラウドパートナープログラムに参加するための初期費用は無料になる。既存パートナーのクラウドへのシフトを本気で促したいというオラクルの意志が、ここにも現れているといえそうだ。
ハードCEO、クラウド化が進む2025年の業界を予測
オラクルが存分に力を発揮できる環境に

マーク・ハードCEO OOW 2015二日目の10月26日午前中には、マーク・ハードCEOが登壇し、基調講演を行った。エリソン会長が前日にクラウド市場で勝ち残るための基本方針として六つの設計目標を示した(『週刊BCN』1603号2面参照)のに呼応してということか、ハードCEOは、「2025年の五つの予測」を披露した。また、基調講演終了後はアジア太平洋地域のプレスとの質疑に応じ、より率直な表現で他ベンダーに対するオラクルの優位性を説明した。
●アプリケーションの8割はクラウドに ハードCEOが基調講演の前半で強調したのは、「オンプレミスでのIT運用は持続可能ではない」ということだ。そのうえで、クラウドへのシフトを前提に、ハイブリッドでのIT運用が今後10年は続くという見方を示し、それこそがオラクルの競争力を存分に発揮できる環境であることをアピールした。
結果として、10年後の25年に市場はどうなっているのか。ハードCEOが予測したのは、次の五つだ。
(1)アプリケーションの80%はクラウド上で稼働するようになる
(2)2社のアプリケーションスイート・プロバイダがSaaS市場の80%を占めるようになる
(3)新しいアプリケーションの開発・テストは100%クラウド上で行われるようになる
(4)ほぼすべての企業のデータはクラウドに格納されるようになる
(5)エンタープライズクラウドは最も安全なIT環境になっている
さらに、5番目の予測には、すでにオラクルは現在でもクラウドで最も安全なエンタープライズ向けのIT環境を提供していると付け加えた。クラウドこそこれからのオラクルの主戦場であり、10年後にクラウド市場でも覇権を握っていると確信しているというメッセージと受け取ることができそうだ。
●SAPに関する質問にエキサイト 基調講演後のアジア太平洋地域のプレスとの質疑では、基調講演の余韻を引きずってか、上機嫌で穏やかな応答が続き、前日のエリソン会長同様、「SAPやIBMをクラウドでは、もはや競合とみなしていない」とオラクルが一足先に次のステージに進んでいると強調した。しかし、『週刊BCN』から「データベースでは、SAPがオラクルの重要なパートナーであるという側面もある。SAPの最新ビジネススイートであるS/4HANA(本号2面参照)のデータベースはHANAに限定され、Oracle Databaseに対応しないが、そうしたSAPの戦略をどうみているか」という質問を投げかけると、急激にボルテージが高まった。
ハードCEOはまず、「SAPの『SuccessFactors』も、『Concur』も、オラクルのプラットフォーム上で稼働している。HANAではない。HANAのうえで稼働しているものが何かあるのか、私は知らない。あなたはSAPの顧客にHANAに移行したい理由があるのか聞いてみるべきだ。安いから? それとも速いから? どちらもあり得ない」と切り出した。ここからさらに、声量は上がった。
「ところで、われわれのデータベースの売り上げのなかで、SAPのERP向けの売り上げが一体何%なのか、あなたは知っているのか。具体的な数字はいわないが、5%にも満たない。私がSAPの人間なら、アプリケーションをクラウドに移行することを最優先する。彼らにとっての課題は、コアな顧客をオラクルのクラウドアプリケーションに奪われて失いつつあるということ。いまやワークデイのクラウドアプリケーションも、彼らのコンペティターだ。あらためていうが、何が基盤であるかは問題ではない。重要なのは、一番うえのレイヤのSaaSで勝つことだ。SAPはHANAに時間をかけて取り組んできたが、そのためにコアのERPのソリューションにわれわれほど時間をかけることができていない。だから、クラウドERPでオラクルが多くの顧客を獲得しているのに、彼らはほとんど新しい顧客を獲得できていない。それが私の見方だ」。
現実的には、これまでしのぎを削ってきた大手ベンダーとの競合関係はまだまだ存在するはずだが、ハードCEOの発言はぶれない。
SCM Cloud、SPARC M7
クラウド戦略のキーとなる新製品も

来場者の注目を集めたSPARC M7サーバー こうした年次イベントでは当然のことながら、期間中、多くの新製品も発表された。なかでも注目すべきは、SaaSの新たな製品ラインアップとして、生産管理など製造業向けの機能を付加した「Oracle SCM(Supply Chain Management) Cloud」の最新版と、最新のマクロプロセッサ「SPARC M7」を搭載したハードウェア製品群だ。
前者は、「基幹系のアプリケーションで包括的な製造向けのアプリケーションまでをクラウドで網羅できているのは、オラクルだけ」とラリー・エリソン会長兼CTOが基調講演で胸を張ったように、基幹系のクラウドアプリケーションの最後のピースともいうべき商材だ。
また、SPARC M7は、メモリ内のデータへのアクセスをリアルタイムにチェックする機能や、パフォーマンスを低下させずにハードウェアの処理を暗号化する機能などを盛り込んでおり、エリソン会長は、クラウドインフラのセキュリティを守る商材とも位置づけている。