リテール業界はオムニチャネル化が進んでいる。デジタルマーケティングを活用して顧客のパーソナルなニーズにもとづいた提案をするのが重要になっているのはもちろんだが、店頭での顧客体験の向上も消費者への大きな訴求ポイントといえよう。ビックカメラでは、待ち時間を少なくすることで顧客に喜ばれる修理サービスコーナーを実現し、他社との差異化を図っている。
【今回の事例内容】
<導入企業>ビックカメラ1978年創業。連結売上高約8000億円を誇る大手家電販売店チェーン
<決断した人>井谷武志
ビックカメラASP事業部
事業部長
大手メーカー製品の修理サービス事業を統括
<課題>修理サービスカウンターの待ち時間が長く、顧客の不満に対応できていなかった
<対策>受付管理アプリを導入するとともに、ベンダー側にデータ活用機能の実装を要望した
<効果>待ち時間短縮を実現したのはもちろん、KPIを設定し、データを活用して業務改善にもつなげることができた
<今回の事例から学ぶポイント>新興クラウドサービスベンダーとがっぷり四つに組み、パートナーとして機能向上に貢献することで、ユーザー側も大きなメリットを得られる
社長からトップダウンの指示
大手家電販売店チェーンのビックカメラは、各種取扱製品の修理サービスを全国の店舗で展開し、ユーザーのサポートニーズに応えている。
一般的にサービスセンターのカウンターは、機器の故障などがあって初めて訪れる人が多い場所であり、待ち時間が長くなると来店客のイライラも募りがちになる。ビックカメラで修理サービス事業を担当する井谷武志氏は、「修理サービスのカウンターには、ウェブで予約をして来られる方、当日直接ご来店される方、お預かりとなった製品を受け取りにいらっしゃる方と、さまざまなお客様がおいでになるし、機種によって対応に必要な時間もまったく違う。しかし、従来導入していた整理番号発券システムでは、こうした細かい属性ごとに切り分けてうまくご案内する機能がなく、それほど時間がかからない用件のお客様を必要以上にお待たせしてしまい、帰られてしまうということもあった」と、従来の課題を明かす。
そんな時、井谷氏のもとに、同社の宮嶋宏幸社長から「昨日のテレビ番組に出ていた、リクルートライフスタイルの『Airウェイト』というアプリを見たか?」と連絡が入る。急いで番組の内容を確認した井谷氏は、まさに上記の課題に対応できるアプリケーションではないかという手応えを感じ、リクルートライフスタイルと連絡を取った。すぐに、Airウェイトのプロデューサーを務める渡瀬丈弘氏が直接ビックカメラを訪れ、導入へのプロセスがどんどん構築されていった。
2015年2月に試験運用を開始し、同3月には全国の店舗で本格的に稼働している。当初の目的通り、顧客の待ち時間の短縮という課題はクリアできたが、「Airウェイトの真価は、実はそこではなく、むしろさまざまなデータを業務改善につなげることができるという点だった」(井谷氏)という。
要望を製品アップデートに反映
「カウンターの待ち時間の短縮だけを目的とすれば、実は他にもさまざまなツールがある。われわれが望んでいたのは、システムからデータをしっかり取ってKPIを設定し、業務改善につなげられる仕組みだった。その意味で、Airウェイトも当初は完璧な製品ではなかったが、リクルートライフスタイルが、われわれの要望を製品にどんどん反映してくれて、すばらしいアプリケーションに仕上げてくれた。これはクラウドサービスならではの利点だと思う」(井谷氏)。
例えば、整理券を発券してから実際に窓口で対応してもらえるまで、どのくらいの時間がかかっているのか。窓口で対応を開始してから対応完了までの時間はどれくらいなのか。そうしたデータを把握・分析して、店舗のオペレーションに役立てる。全国に店舗をもつビックカメラのような業態では、この仕組みが大いに役立ったという。井谷氏は、次のように話す。
「データを把握することで、そのカウンターが正常に運営されているのかがわかる。異常値が出ていないか日々チェックして、異常値が出る割合が多ければ、人が足りていないとか、担当のスキルをもっと高める必要があるとか、いろいろな仮説を立てて改善につなげることができる。当社は全国に店舗があるので、まずはデータで状況を把握できるというのは非常に大切なポイント。結果として、店舗ごとのサービスレベルに差が出るのを防ぐこともできる」。
Airウェイトのほか、予約管理の「Airリザーブ」、先行してリリースされているPOSレジアプリ「Airレジ」など、リクルートライフスタイルの店舗向けクラウドアプリケーションは、まだ基本的に無料で提供している段階であり、アプリケーションそのものの価値向上に重点を置いている。そのため、Airウェイトのプロデューサーの渡瀬氏は、ビックカメラの要望によりさまざまな機能を開発して実装したことを、「貴重なご意見をいただき、本当の現場の意見を反映させることができた」と評価する。
ただし、井谷氏の機能改善の要望はまだまだ終わらない。「それぞれのカウンターの担当者が、いまどのくらいの時間をかけてお客様対応をしているのか、タブレット端末からリアルタイムでみられる機能を実装してほしい。所定の時間をオーバーしている場合、トラブルに巻き込まれている可能性もある。現場の管理者がそれを把握して、スムーズにフォローに入ることができるようにしたい」と、現場の改善には貪欲。この機能も16年1月に実装された。
ビックカメラのApple製品修理カウンターでは、Airリザーブも導入済みで、AirウェイトとAirリザーブをスムーズに連携させることで、効率的な人員配置など、カウンターの稼働率向上につなげたいと考えている。(本多和幸)