「直販のデル」のイメージを、今度こそ払拭する──。パートナービジネスによる本格的な販路拡大を実現するというミッションを背負い、昨年8月、松本光吉氏が執行役員副社長パートナー事業本部長に就任した。それから約半年。まずは大手ディストリビュータとの協業を深めることで、デルのパートナービジネスを大きく加速させようとしている。(本多和幸)
パートナービジネスの実質的なキックオフ
直販・BTOの「デルモデル」で急成長した米デルは、2000年代後半、成熟期を迎えたパソコン市場に埋もれないための新たな成長の方針として、「トータルソリューションプロバイダへの転換」と「パートナービジネスへのシフト」を掲げた。それから早くも10年近い月日が経った。この間、デルは日本でもパートナービジネスに注力する姿勢をみせ、一定の成果を挙げてきたが、市場には「直販のデル」のイメージがまだ色濃く残っているのも確か。これを乗り越え、パートナービジネスのギアを一段上げるのが、松本副社長に託された役割だが、ここにきて、その端緒となり得る動きが顕在化している。

松本光吉
副社長 1月15日に、デルはパートナー向けイベント「Dell Partner Forum 2016」を都内で開いた。約400人が集まったこのイベントは、デルの主要パートナーであるソフトバンク コマース&サービス(C&S)とダイワボウ情報システム(DIS)の大手ディストリビュータ2社が共催に名を連ねた。イベントは非公開だったが、メインの催しだったパネルディスカッションでは、ソフトバンク C&Sの溝口泰雄社長兼CEO、DISの安永達哉・専務取締役が、デルの松本副社長と一緒に登壇し、デルとの協業への期待を語った。松本副社長は、「デルのパートナービジネスの実質的なキックオフ・イベントになった」と力を込める。
マルチベンダーを基本とする大手ディストリビュータのトップ層が、特定のメーカーのプライベートなイベントに揃って出席し、なおかつメーカー側のパートナー事業責任者と壇上で意見を交わすのは、極めて異例。また、招待状の封筒にも3社のロゴが刻印されており、受け取ったパートナーに少なからぬ衝撃を与えたことは想像に難くない。結果として、イベントには、両社が抱えるリセラーの経営者などが多数参加した。
デルはイベントに先立ってパートナーの商流を若干整理している。より高い付加価値が求められるエンタープライズ向けのソリューションサービスや大規模案件を手がけられる大手SIer・IT販社などの特約店以外は、両ディストリビュータ経由で商品を流通させることを明確化した。これにより、SMB向けのビジネスを含め、面的カバレッジを全国に広げるボリュームビジネスは、このディストリビュータ2社がパートナー網の主軸を担うことをあらためて示したわけだ。こうした経緯を踏まえてみると、今回のパートナーイベントは、デルとソフトバンク C&S、DISの間に、強固な協業関係ができつつあることの一つの証といえそうだ。
デルのプレゼンスに対するパートナーの期待は高い
デル側が両社との協業を深めたいと考えるのは自然なことではあるが、ソフトバンク C&SとDISが、見方によっては“特別扱い”に近いかたちでデルビジネスに注力する姿勢示す背景には何があるのだろうか。松本副社長は、「デル製品を扱っていただくことで、お互いの成長が十分に見込まれるというシンプルな理由」だと説明する。
「パートナーの皆さんがデルをどう評価されているのかというと、潜在的には、製品力やプロダクトの魅力は十分にあると思っていただいているのは間違いない。というのも、お客様からデル指定の引き合い、お声がけというのは、相当数あるからだ。しかし、直近の例でいうと、Windows XPのマイグレーションにネットワーク機器の設定も合わせてお願いできないかというようなご要望をいただいた場合、とくに地方都市の案件などでは、直販では対応できないことも少なくない。つまり、デルにせっかくお声がけいただいているのに、単品売りではなくソリューションやサービスといった付加価値が求められるケースでは不戦敗になってしまう“機会損失”が発生していた」。
デルにとっては、この機会損失に対応できるパートナー体制を整えることができれば、確実に上積み要因になるし、パートナー側からみれば、デル製品のプレゼンスが高く顧客側からの引き合いが多いため、案件を取りやすくなるというメリットがあるわけだ。パートナーイベントでは、公共担当、中堅・中小企業担当、大企業担当というデルの主要三部門の営業トップも壇上に立ち、各領域におけるパートナーとの協業事例を紹介。ここにも、デルのパートナービジネスへの本気度が現れているといえよう。
こうしたビジネスモデルを拡大するために、「パートナーセントリックなアプローチを徹底し、サポートをきちんとしていかなければならない」と、松本副社長は気を引き締める。さらに、「以前は、リセラーもエンドユーザーと同じ購買者だという意識があったのは否めず、再販していただくパートナーとしてのおつきあいができていなかった。ビジネスパートナー向けの情報はマス広告などでは発信できないが、ディストリビュータ経由で万単位のリセラーにデルの情報と製品をお届けする体制ができた」と手応えを語る。両ディストリビュータの拠点を活用した納期短縮策なども着実に進めているという。
直販で培った資産をパートナーと共有
松本副社長は、就任当初からデルが直販ビジネスで培ってきた資産をパートナーと共有していく方針を示していたが、そうした取り組みも強みとして訴求していく。「デル製品には明確なメーカー保証があるし、カスタマセンターにはロイヤリティが高いテクニカルサポート部隊がいて、拡張保守契約をしていただければ、24時間365日のレスポンスをお約束している。リセラーの皆さんにも、安心して売っていただける体制を整えている」として、そうした情報も2社のディストリビュータと手を携えて浸透させていく意向だ。