FinTechの新技術として注目を集めるブロックチェーンを、より汎用的に使うことができる環境をつくろうという動きが出てきた。これをリードするのが、プライベート・ブロックチェーンのプラットフォーム「mijin」を開発・提供するテックビューロ(朝山貴生代表取締役)だ。朝山代表取締役は、mijinを「いま世界で一番進んでいるブロックチェーンのプラットフォーム」と自負する。ブロックチェーンは、ITシステムの世界にどんな変革をもたらすのか。(本多和幸)
システムが落ちない、データが消えない、改ざんもできない

インフォテリア
平野洋一郎
社長 2015年12月、テックビューロは、インフォテリア(平野洋一郎社長)との事業提携を発表した。具体的には、mijinとインフォテリアのデータ連携ソフト「ASTERIA WARP」を接続するための専用アダプタを開発し、その実証実験を今年1月から始め、4月には発売するという内容だ。また、今年1月には、両社とさくらインターネット(田中邦裕社長)が協業し、さくらインターネットのクラウドサービス上で、mijinとASTERIA WARPを使うことができる実証実験プラットフォームを無償提供することを明らかにした。
ブロックチェーンは、暗号技術とP2Pネットワークをコアとするデータ処理の基盤技術であり、仮想通貨ビットコインを支えるテクノロジーとして生まれた。P2Pネットワーク上の複数のノード(コンピュータ)が分散型の合意形成を行い、暗号署名しながら複数のトランザクションをブロック単位で処理する。技術の詳細は割愛するが、キャパシティを超えても自動で遅延処理するためシステムが落ちない(ゼロダウンタイム)、データが消えることはなく、改ざんもできない、そして低コストで稼働できるというメリットがあり、銀行の勘定系システムや金融商品の取引システムなどへの適用の検討が世界的に進んでいる。事実、ビットコインは、2009年の運用開始以来、一度もデータの改ざんやシステムの停止といった障害は起こっていない。
mijinは、クラウド上や自社データセンター内などに、このブロックチェーンの技術を自社内や協業企業間同士でのみ利用可能な環境を構築するソフトウェアだ。テックビューロの朝山代表取締役は、mijinの開発の背景や特徴を次のように説明する。

テックビューロ
朝山貴生
代表取締役 「従来のクライアント/サーバー型のシステムは、100%の稼働率を目指して巨大なサーバーを構築し、電源、回線、機材など、すべての冗長化が必須だった。しかし、機材障害や外部からの攻撃、回線の遮断によるダウンタイムなどは避けられず、サービス規模の拡大に合わせてコストは膨張する一方だった。そうした課題を解決するために、消せない、改ざんできない、盗めない、誰にも止められないブロックチェーン・テクノロジーを誰もが簡単に利用できるように開発したのが、mijinだ。ただし、ビットコインのようなパブリックなブロックチェーンは、常にインターネット上にさらされていて、いろいろな制約があることも確かで、パフォーマンスの限界も低い。企業のシステムに適用するには、世界中のコンピュータが動いているネットワーク上ではなく、プライベートな環境で使えるようにしなければならないと考えた」。
「mijinを複数のクラウドサーバー上に立ち上げると、ノード同士が自動的にコンセンサスを取りながら、各々データをブロックチェーンに記録する。もし、障害や外的からの攻撃で複数のノードが機能を停止したとしても、一つでもノードが稼働していればサービスは止まることがなく、データがこの世から消えることはない。複数のノードを物理的に離れたネットワークに立ち上げれば、冗長化やバックアップさえ必要がなくなる」。
金融だけでなくさまざまな分野で適用が可能
両社の協業も、当初は「金融システム構築・運用コストを従来の10分の1以下にできる開発プラットフォームの実現」や、「金融機関へのASTERIA WARPの導入件数を向こう5年間で倍増させる」といった目標を掲げており、金融分野のITシステム変革を模索するという色彩が濃かった。しかし、さくらインターネットとの協業による実証実験プラットフォーム提供の発表にあたっては、幅広い用途でプライベート・ブロックチェーンの普及を探るという方針を明確にしており、無償提供で利用者を募っているところにも、そうした意図が現れているといえよう。
1月14日に両社は記者会見を開いたが、インフォテリアの平野社長は、「既存システムとmijinをASTERIA WARPがつなぐことで、金融だけでなく、流通、製造、公共、医療など、さまざまな分野でブロックチェーンを適用できる可能性が広がる。トレーサビリティ、検査・検証データ、登記・試験履歴、治験データなど、改ざんが許されないデータはあらゆる業界に存在する」と、ブロックチェーンの可能性を説明した。
テックビューロの朝山代表取締役も、同様に、mijinが既存のデータベースに置き換えて汎用的に活用できる技術であることをアピール。実際に勘定系システムのバックエンドをブロックチェーンに置き換えた場合に、劇的なコスト削減が可能になることを、おおまかな試算結果なども交えて解説した。
なお、テックビューロは、インフォテリア以外にもパートナー網を拡大している。知財販売の決済やユーザー認証(パートナーはオウケイウェイヴ)、ECの受注エンジン(同ロックオン)、ゲーム用バックエンドエンジン(GMOインターネット)、情報配信システム(フィスコ)、フィンテック関連スマートフォン用アプリ(アイリッジ)などへのmijinの活用を探るプロジェクトがすでに動き出している。
ただし、実際にmijinが普及するには、企業のシステム構築を担ってきたSIerへの浸透が不可欠に思える。多くのSIerとパートナーシップを組むインフォテリアの平野社長からみると、「ブロックチェーンに関するSIerの関心は総じてまだまだ低く、ブロックチェーンとは何かということから啓発に取り組まなければならない段階」だという。テックビューロは、パートナーと共同でセミナーなども積極的に展開していく方針だが、mijinの過激にもみえる新しい価値をどのように市場に訴求していくかが最大の課題になりそうだ。