【上海発】日系IT企業の中国ビジネスの成長率が減速している。BCN上海支局が50社を対象に2015年通期の動向を調査した結果、過半数の中国現地法人の通期売上高が、中国IT市場全体の成長率を下回ったことが明らかになった。日本向けオフショア開発のコスト構造が厳しくなっていることに加え、日系IT企業のほとんどが依存している現地の日系企業マーケットが、飽和状態に向かいつつあることが大きな要因となっている。(上海支局 真鍋 武)
今回、BCN上海支局が調査を行った対象は、上海と北京を中心とした日系IT企業の中国現地法人50社。各社は総じてSI・ITサービスやプロダクト販売などの中国国内向けビジネスを手がけており、このうちの29社は対日オフショア開発ビジネスも展開している。
調査の結果、通期売上高が前年比で成長した企業は66%で、2ケタ成長を遂げたのは44%だったことがわかった(グラフ参照)。ただし、中国工業和信息化部(工信部)が発表した15年の中国ソフトウェア・情報技術サービス産業の前年比成長率は16.6%増だ。日系IT企業の過半数が、中国IT市場全体の成長率を下回っていることになる。通期売上高がマイナス成長した企業も28%あり、前回実施した上半期(1~6月)の調査結果よりも14ポイント増えた。不採算事業からの撤退や、人員削減などのリストラ実施をマイナス成長の理由に挙げている企業が多い。
通期の経常利益率の設問では、60%が黒字と回答。経常利益率は0~5%との回答が38%で最多だった。一方、赤字企業では、為替変動による利益圧縮や、中国の人件費高騰によるコスト負担増大が足かせとなっている。
事業別では、中国国内ビジネスの通期売上高が2ケタ成長した企業が54%、マイナス成長は18%にとどまった。ただし、15年に獲得した新規顧客に占める日系企業の割合が過半数の企業が66%あり、日系依存体質は変わっていない。日系マーケットの認識に関する設問では、開拓余地が小さいとの回答が58%、ITベンダー間の競争が激しいとの回答が72%だった。日本の対中直接投資額は落ち込んでおり、日系企業の数も増加傾向にないため、16年は日系マーケットではますます成長しにくくなる。
これに対して、非日系企業向けビジネスに対する意欲では、主体的に提案するとの回答が54%を占めた。最近では、IIJグローバルソリューションズやセゾン情報システムズ、ユニリタなどが、積極的にローカル企業向けビジネスに積極的に挑戦している。NTTデータや日本ビジネスシステムズなど、欧米系企業向けビジネスが拡大している企業も増えている。
一方、事業別の対日オフショア開発では、約58%の企業で15年の開発量が増加した。市場環境は厳しいが、日本国内の人材不足を背景に、安定したリソースの確保を目的として中国を活用する動きが目立つ。最近では、野村総合研究所(NRI)が中訊軟件集團(サイノコム)のNRI向けオフショア事業を買収したことが記憶に新しい。人件費が上昇しているため、15年に請け負い単価を値上げした企業は約72%あった。また、ここ数年間の最大の懸念材料であった為替レートは、15年8月の人民元切り下げ以降は元安傾向となっている。16年の想定レートを1元あたり20円以上と回答した企業はゼロだった。
16年のオフショア開発については、拡大するとの回答が約41%と最多で、縮小していくとの回答は10%程度にとどまった。工信部が発表した15年の中国ソフトウェアアウトソーシングサービス輸出額は、前年比で成長率ゼロにとどまったものの、日系IT企業のオフショア開発が急速に縮小していくわけではなさそうだ。