ロボット・ディストリビューション事業を手がけるDMM.com(松栄立也社長)は、コミュニケーション・ロボットを活用した企業向けビジネスを本格的に立ち上げる。会話可能なロボットをインターフェースとして、部門間の壁を低くしたり、新しい気づきを促したり、組織の横の連携の促進に役立てる。企業の情報共有系システムをAI(人工知能)で分析し、その要約を日常のさりげない会話に織り交ぜて社内に広める役割をコミュニケーション・ロボットに担わせる仕組みだ。DMM.comは、こうした取り組みによって、これまで比較的弱かった企業向け販売チャネルの構築を目指す。(安藤章司)
日常のさりげない会話に織り交ぜる
DMM.comでは(1)グループウェアや営業支援、名刺管理、顧客管理、電子メールといった情報共有系の業務アプリケーションとの連携(2)企業向け販売チャネルをもち、システム構築を本業とするSIerとの協業(3)費用対効果の三つを重視することで、企業ユーザー市場での「コミュニケーション・ロボット事業」を迅速に立ち上げる。同市場で実現することについて、DMM.comの岡本康広・ロボット事業部事業部長は「まずは緩いコミュニケーション」だと話す。
「緩いコミュニケーション(揺らぎ)」とは、異なる事業部門や支社・支店、グループ会社などが、今、どんな顧客に営業をしているのか、あるいはどんなプロジェクトを進めているのかといった情報を、ロボットが「さりげなく、雰囲気だけでも教えてくれる」(岡本事業部長)ことで、同一企業体内での横の連携を促進する効果をねらうものだ。
従来のグループウェアや営業支援、電子メールといった情報共有系のシステムは、岡本事業部長が言うような“揺らぎ”があるようには設計されていない。一言一句、明瞭に、間違いなく情報を伝達するシステムになっており、むしろ“揺らぎ”があったら業務上、不都合になってしまう。このため、ユーザーの職制や属性に合わせて閲覧制限を設けたり、電子メールは権限がない限り、中身をみたりすることは、一般的にはできない。
“揺らぎ”の実現には、そのバックヤードでさまざまな仕掛けを構築しなければならない。まずは、社内の情報共有系システムとのつなぎ込みと、これらの情報を解析し、有用と思われるデータを抽出、さらにこれを「Watson(IBM)」や「Zinrai(富士通)」といったAIエンジンで解析し、自然言語処理によって日常のさりげない会話に織り交ぜる(図1参照)。ロボットが誰にでもべらべらしゃべるのは都合が悪いため、社員の顔を認識し、その人の属する部門や属性、職制に合わせて会話の内容を変えることで、初めて“揺らぎ”が成立する。
SIerやISVを巻き込んだ協業を重視
DMM.comが目をつけたのが、コミュニケーション・ロボットを業務上の新しい情報共有の手段としての価値を見出しているPwCコンサルティングだった。PwCコンサルティングは、顧問先である企業顧客の生産性向上や新規顧客のターゲットとなるロボット産業の振興、ハードウェア・スタートアップの立ち上げ支援を視野に入れつつ、「当社としても、今後、拡大が見込まれる企業向けコミュニケーション・ロボット事業への本格的な参入」(PwCコンサルティングの水上晃ディレクター)に取り組んでいる。
NTTデータの調べによれば、国内ロボット市場のうち、最も伸び率が大きい領域が、コミュニケーション領域を含むサービス提供型のロボットだ。これまでロボットといえばFA(工場自動化)領域がメインだったが、2025年にはおよそ半分がサービス領域で活用されるロボットビジネスが占める見通しだ(図2参照)。この原動力となるのが、企業の情報共有系システムのデータ連携が容易になり、ビッグデータ分析やAIエンジンの技術的向上によるところが大きい。デバイス(端末)としてのロボットは、顔認識用のカメラと会話用のマイクとスピーカーがあればよく、基本的にはスマートフォン程度の機能で十分。但し、スマートフォンと会話するのは抵抗がある。愛嬌のある人型のロボットであれば話しかけやすい。
ポイントとなるのは、SIerが企業向けの強力な販売チャネルとSI力、提案力に裏付けられた投資対効果を顧客に訴求できるかどうかだ。PwCコンサルティングの矢部篤樹・シニアマネージャーは、「部門の壁や新しい気づき、組織横断的な協業を促進できるように設計、構築するSIerの力量にかかっている」と指摘する。
現在、コミュニケーション・ロボットの国内主要ディストリビュータはDMM.comとソフトバンクの2社だが、DMM.comはSIerやソフト開発会社(ISV)、サービスベンダーそれぞれの商材や強みを生かしやすくすることで、企業向けビジネスの迅速な立ち上げを目指す方針だ。

写真左からPwCコンサルティングの矢部篤樹シニアマネージャー、DMM.comの岡本康広事業部長、PwCコンサルティングの水上 晃ディレクター