前回説明したように、タイのローカルのユーザー開拓にも乗り出した東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)だが、軸足は、あくまでも日系企業向けのビジネスに置くことに変わりはない。ただし、ここにきてタイの日系企業のビジネスのあり方も変わり始めている。継続的な成長を実現するためには、マーケットの変化に適応することが不可欠だ。(取材・文/本多和幸)
現地人材の確保・育成に課題
タイに進出している日系企業の代表格である自動車製造業は、1990年代半ば頃からタイでの生産能力を拡大し、これに伴って主要部品メーカーのタイ進出も加速した。これだけの歴史をもつことを考えれば、日系企業のタイでのビジネスのかたちが変容するのは自然なことといえる。

B-EN-Gタイ
渡邉祐一
ゼネラルマネージャー/
ディレクター B-EN-Gの現地法人であるToyo Business Engineering(Thailand)(B-EN-Gタイ)の渡邉祐一・ゼネラルマネージャー/ディレクターは、「日系企業は、どんどん日本人を減らしてローカル化しようとしている。つまりそれは、われわれのビジネスにおいても、対面するお客様の意思決定者がタイ人になるケースが増えてきているということ。こうしたお客様のトランスフォーメーションに合わせて、自分たちも変わっていかないといけない」とみている。
直接的には、生産・販売・原価管理パッケージの「MCFrame」、海外現地法人向けのERPパッケージ「A.S.I.A.」のコンサルタントなど、現地の優秀な人材をいかに確保するかが課題になっている。すでに、日本人同士で仕事をしていけばいいというマーケットではなくなっているのだ。渡邉ゼネラルマネージャーも、「タイ人スタッフに支えられているというのが当社の強みではあるが、いい人材をみつけて育てるのは難しいし、長く働いてもらうのはさらに難しいのは確か」と、苦悩を滲ませる。現地日系企業の経営層に話を聞くと、タイ人特有の仕事観として、総じてそれほど一か所の職場に執着せず、気軽に辞めてしまう傾向もみられるようだ。
それでも渡邉ゼネラルマネージャーは、「いかに自社が魅力ある会社になるかが人材確保の王道」だと強調する。「タイ人に長く働いてもらうために、スキルに見合った待遇と、何より成長の機会を提供することが重要。東京本社での研修なども行い、B-EN-Gがどんなスケールでビジネスをしている会社なのか知ってもらうのも意義が大きいだろう。結局は、誇りをもって働ける会社だと思われなければ長く働いてくれない。その点で、日本人と違いはない」。
なお、B-EN-Gタイは、一旦他社に転職した人材の“出戻り”も歓迎している。「他社を経験して、もう一度B-EN-Gを選んでくれたのなら、それはありがたいことだし、他社での経験を業務にも生かしてもらえる。ITベンダーは人材に対してオープンであるべき」(渡邉ゼネラルマネージャー)という考え方がその根底にはある。
ローカル人材の充実は、ローカルユーザーの獲得にも当然追い風になるだろう。タイ企業の35%は、ASEANの他国に拠点をつくりたいと考えているという。インドネシア、シンガポールにも現地法人を置き、ASEAN地域を広くカバーするB-EN-Gはその点でもアドバンテージを発揮できそうだが、タイ人の視点でタイ企業の国外進出をサポートできる人材は、ビジネス拡大を強く後押ししてくれるといえそうだ。
新市場開拓でB-EN-Gのポテンシャルを示す
B-EN-Gタイは、基幹業務ソフトパッケージを中心とした既存のビジネスの枠を越え、変化するタイのマーケットで新たな成長の糧となりそうな“ネタ”の仕込みにも着手しつつある。それは、IoTだ。B-EN-Gは、製造業へのIoTソリューション提供を新しいビジネスの柱として育てていく方針を明らかにしている。アマゾンウェブサービス(AWS)のパートナープログラム「AWS Partner Network」に加入して、AWSのサービスをベースに、IoTを活用した製造業向けの高度なサプライチェーンマネジメントソリューションなどを提供していくことを発表するなど、具体的な動きもすでに顕在化している。こうした取り組みを、ASEAN市場にも展開していく方針だ。
渡邉ゼネラルマネージャーは、「タイでは、製造ラインのオペレーションは基本的にリアクション対応であり、障害が発生してからどうするか考える。予防保全という概念はほとんどない。しかし、人件費が上がり続けていることから、生産性の向上や業務の効率化はタイでも避けて通れない課題になってきている。生産機械の情報をレコードして、ラインを止めないような効率的な運転につなげていくソリューションにはニーズがあると考えている」と話す。ハードルは高いものの、タイ国内にはまだ浸透していない新しいコンセプトのソリューションを提案していくことで、顧客はもちろん、社員にも、B-EN-Gのポテンシャルの高さを示そうとしている。