基幹系システムのクラウド化がようやく本格化し、大手グローバルベンダーを中心に、クラウドネイティブな次世代型ERPとでもいうべき、新しいアーキテクチャで開発したERPを、この1~2年で相次いで国内市場に投入している。近年、市場での存在感を高めている米マイクロソフトの「Dynamics AX」もついにその波に乗り、ERP市場はいよいよ新たなフェーズに突入したといえそうだ。(本多和幸)
日本マイクロソフトは今春、ERP製品「Dynamics AX」の最新版として、東日本・西日本の国内2か所のデータセンターからパブリッククラウドで提供する「Dynamics AXクラウド」をリリースした。課金はユーザー単位の月額サブスクリプションモデルで、サブスクリプションライセンスにはAzureの利用料金も含まれる。将来的には、同一の機能をもつプライベートクラウド版、オンプレミス版も提供する予定だが、まずはパブリッククラウドのSaaSモデルを先行させたかたちだ。

杉本奈緒子
シニアプロダクトマーケティング
マネージャー Dynamicsビジネス統括本部Dynamicsマーケティング部の杉本奈緒子・シニアプロダクトマーケティングマネージャーは、その背景について次のように説明する。「お客様のビジネスがものすごいスピードで変化したり成長する時代になって、ERPといえども、3年かけて構築して、10年使うというような考え方ではニーズに応えられなくなっている。もちろん、法規制対応や特定業種・業務向けの機能拡張なども絶えず行っているが、それ以上に、海外で10人規模の新規拠点を早急に立ち上げて基幹システムもすぐに入れたいとか、複数拠点にまたがって1インスタンスで使えるとか、幅広い“使い方”の要件を満たすERP製品へのニーズが高まっている。これに応えるには、クラウドで提供するしかない。クラウドテクノロジーが成熟、安定してきたタイミングとも合致した」。
結果的に、ERPの“使い方”の幅広い要件に応えるべくクラウド化したことで、顧客対象も広がった。Dynamics AXクラウドは、250人~5000人規模の組織での導入に対応できるという。
販売戦略では、従来のDynamics AXの販売チャネルだったライセンスソリューションパートナー(LSP)に加えて、クラウドソリューションプロバイダ(CSP)経由での販売を新たに始めることも大きなトピックといえよう。CSPは、自社のもつサービスやアプリケーションとマイクロソフトのクラウドサービスを組み合わせて、統合ソリューションとしてユーザーに提供することを許された認定パートナーだが、Dynamics AXクラウドのSaaSとしての強みを生かした間接販売という意味では、一つのモデルケースを示してくれそうだ。杉本シニアプロダクトマーケティングマネージャーは、「他社製品には、ERPパッケージといいつつもスクラッチ開発に近いレベルで手がかかる製品もあるが、Dynamics AXクラウドはコンフィギュレーションでバーティカルな業種・業務要件にきちんと応えることができるERPに仕上がっている」としたうえで、「日本のパートナーが開発したテンプレートも豊富だし、海外のISVパートナーが開発した特殊な分野向けのソリューションもあって、販売パートナーには、自社のソリューションと組み合わせてお客様に合わせた幅広い提案がしてもらえる」と説明する。また、データ分析ツール「Power BI」などとの連携も可能で、「ERPのデータに比較的オープンにアクセスできるようになった」(杉本シニアプロダクトマーケティングマネージャー)ことも、パートナーが付加価値の高い提案をするための追い風になりそうだ。
現在のDynamics AXクラウドの販売パートナーは30~40社。日本マイクロソフトとしては、まずはこれらのパートナーに経験値を高めてもらい、顧客満足度を向上させ、Dynamics AXクラウドのビジネスの基礎固めを図る方針だ。