Windowsで世界を席巻したマイクロソフトが、対極にあるOSS(Open Source Software)のディストリビュータとして存在感を増しつつある。マイクロソフトを変えたのは、同社のクラウドサービス「Microsoft Azure」である。クラウドサービスへと大きく舵を切ったマイクロソフトにとって、もはやWindowsはサービスの一つに過ぎないというわけだ。IT業界にさまざまなイノベーションを起こしてきたクラウド。その影響を最も受けた一社が、マイクロソフトということもできそうだ。(畔上文昭)

平野拓也
代表取締役社長 「Windowsにとどまらない新しいエコシステムへ。顧客視点で新しいエコシステムを確立する」。日本マイクロソフトの平野拓也社長は7月5日、新年度経営方針記者会見において徹底した変革を推進するとし、五つの項目を掲げた。その一つが“脱Windows”とも解釈できる変革への取り組みである。
マイクロソフトは当初、同社のクラウドサービスを「Windows Azure」としていたが、2014年4月に「Microsoft Azure」に変更した。以降、クラウドはオープンであるべきとの考えから、OSSを強く意識して取り組んできている。

新井真一郎
OSS戦略担当部長 なかでもマイクロソフトは日本でOSSディストリビュータとしての存在感を増している。「Azureにおける仮想マシンの新規契約は、日本では50%以上がLinux」と、日本マイクロソフトの新井真一郎・クラウド&エンタープライズビジネス本部OSS戦略担当部長は語る。全体としては、仮想マシンの約3分の1がLinuxだという。グローバル全体では約4分の1であることから、日本でOSS化が進んでいることになる。
OSSディストリビュータ化への取り組みは、Linuxだけではない。「Hadoop」「Docker」「MySQL」など、多くのOSSをAzure上で利用可能にしているほか、約2000のOSSコミュニティに参加し、開発などの支援を行っている。マイクロソフトが目指すのは、「あらゆるデバイス、あらゆるOSで、すべての開発言語、すべてのデータ」をAzure上でサポートすることだ。
とはいえ、マイクロソフトの強みは、やはりWindowsにある。Azureが急成長した背景には、オンプレミスのWindows環境との親和性の高さがある。そのため、クラウド化に出遅れた大手ベンダーの多くは、マイクロソフトの成功を意識し、オンプレミス環境との親和性をアピールしている。
ところが、マイクロソフトはWindows環境の強みを維持しつつ、OSSにも注力していたというわけだ。結果的に、AWS(Amazon Web Services)との差異化にもつながっている。「AWSのサービスの多くはOSSをベースとしているが、独自のサービスとして再構築しているので、オープンとはいい難い面がある。他のクラウドサービスへの移行も容易ではない。AzureがサポートするOSSは、オープン性を維持している」と新井担当部長。Windowsのマイクロソフトというイメージが、クラウドによって大きく変わろうとしている。