自動車用のOS(ベーシック・ソフトウェア)開発競争が過熱している。自動車の制御用OSの「AUTOSAR(オートザー)」の開発を巡っては、国内3社、外資系4社の計7社が参入。群雄割拠の状態に突入している。日本車でもAUTOSAR採用が進展するなか、国内におけるシェア争いが本格化。プラットフォームを制することは、今後の自動車向け組み込みソフト開発のビジネスを大きく左右するだけに、国内ベンダーは技術習得や人材育成に積極的に取り組んでいる。(安藤章司)
国内でAUTOSAR準拠のOSを開発しているのは、名古屋大学の高田広章教授が中心となって設立したAPTJと、SIerのSCSK、デンソー子会社のオーバスの3つの陣営。対する外資系は欧州系のベクターとエレクトロビット、米国系のメンター・グラフィックス、インドのKPITの4社。オープンアーキテクチャ方式で仕様が公開されているだけに、国内だけでも計7社が入り乱れ、同じ仕様のOSを開発する“混戦状態”が続いている。AUTOSARベースでの開発経験に乏しいソフト開発ベンダー各社は、国内の3社と協力・合流するかたちで「陣営」を形成。外資勢に対抗する構えだ。
3陣営の内訳をみると、デンソー子会社のオーバスを除いて、APTJやSCSKはソフトベンダー主導で開発を推進。APTJの高田広章会長は、「自動車・部品メーカーとは共同開発にとどめ、出資を受け入れるのは主にソフトベンダーを中心とする」方針を示しており、顧客である自動車・部品メーカーに対しては中立性を保つ戦略を打ち出す。
APTJでは、2018年秋までにAUTOSARの主要モジュールの開発を完了させるとともに、並行して共同開発を進めている自動車・部品メーカー向けに先行してモジュールを出荷。順調にいけば、18~19年に発売される新車にAPTJ製のAUTOSARモジュールが搭載される見通しだ。それに先立ち、今年11月に横浜で開催される組込み総合技術展(ET 2016)で、APTJ製AUTOSARの名称とロゴを発表する予定。SCSK陣営は、昨年のETに合わせるかたちでSCSK製のAUTOSAR準拠OS「QINeS-BSW(クインズビーエスダブリュー)」をすでに発表している。

国内におけるAUTOSARビジネスは、欧州車向けに部品を納入している日本の部品メーカーが、まず最初に欧州製のAUTOSARを採用。今は、日本車向けでも採用が進展していることから、AUTOSARビジネスに焦点をあてた営業活動が活発化している。AUTOSARはクルマの「走る、曲がる、止まる」を制御する電子制御ユニット(ECU)向けのOSであり、クルマがソフトウェアによって制御する時代の先駆け的存在になっている。それだけに、クルマ向け組み込みソフト開発を手がけるソフトベンダーにとって、AUTOSAR技術の習得、技術者育成は喫緊の課題だ。
OS開発といえば、これまで米国一強だったが、クルマ向けに関しては、一時期米ビックスリーの業績が芳しくなかったこともあり、OSの研究・開発投資で欧州勢が先行。欧州発のAUTOSARが世界標準をうかがうところまで存在感を高めている。国内勢は日本車向けに地の利を生かした手厚いサポート・サービス体制を早期に構築できるかが、国内における外資勢とのシェア争いを決定づけるとみられている。