【ネバダ発】現在の経営体制となって1年あまりが経過したCAテクノロジーズが、年次イベント「CA World '16」を米ラスベガスで開催した。マイケル・グレゴアCEOは、今後企業の生き残りを左右するキーワードとして「継続的な変化」を掲げ、アジャイル化やDevOpsを加速する製品の提供を通じて、変化を前提としたソフトウェア開発のスタイルを、顧客やパートナーに広めていくことを宣言した。(取材・文/日高 彰)

デジタル時代の競争力はテクノロジー+スピード

マイケル・グレゴアCEO 「中国のChangying Precision(長盈精密)という会社は、650人の従業員を雇って携帯電話の部材を製造していた。それが今は全部ロボットに置き換わり、従業員は60人になった。近い将来、わずか20人で工場を回せるようになるという。ロボット化で歩留まりはどうなったか? 品質は? 答えはともに改善した」
「宅配ピザのドミノは、過去数年間にわたって彼らの事業モデルのなかに、テクノロジーを組みこんできた。現在、売り上げの50%がオンラインによるものだ。音声注文アプリを使ってスマートフォン、スマートテレビ、そしてスマートカーからもピザが注文できる。自動配達車やドローンにも取り組んでいる。彼らは今や食品企業ではなくテック企業だ。2010年以来毎年増収で、株価は今年だけでも35%上昇した」
米国時間11月16日、CA World '16の基調講演の冒頭、マイケル・グレゴアCEOは、テクノロジーによって大きな成長を遂げた企業の事例を矢継ぎ早に挙げていった。
「われわれの顧客であるスポーツブランド・アンダーアーマーは、3Dプリンタで靴底をつくり、これまでの製造技術では不可能だった格子状の構造を実現した。最初の製品は20分で完売」「独ボッシュは組み立てラインの効率を12年比で20%向上させた。予知保全や自己認識型の組み立て機によって、20年までに売り上げを10億ドル増やし、それと同額の操業コストの削減を見込んでいる」「電気自動車のテスラはメルセデス・ベンツSクラスとBMW 7シリーズを合わせたよりも多くの台数を販売し、今度は太陽光発電にも進出した」
これらの企業に共通しているのは、ソフトウェア技術によって新しい課題やニーズに対応していることだとグレゴアCEOは主張する。しかも、単にテクノロジーの優位性を競争力としているのではなく、経営判断とソフトウェアの開発・リリースプロセスを一体化し、最短で最高の成果を出すことに重きを置いている企業だという。
ITの問題と組織の問題は表裏一体
このような企業を指すキーワードとして、グレゴアCEOは「Built to Change」という表現を用いた。「変わること」自体を企業のDNAとし、自らが築き上げた事業形態すらも変革しながら成長を遂げていける企業というイメージだ。その反対の企業を指す表現が「Built to Last」。市場の環境や自社の優位性が継続することを前提にビジネスを続ける硬直的な企業像だ。企業の競争力が資本の大きさに依拠していた時代には後者の企業が市場における覇権を握っていたが、現代はそうではない。「ソフトウェアの力によって、今は資金をもっていない人でもイノベーションを起こせる。しかも、ソーシャルファイナンスやクラウドファンディングなど、資金調達自体もアプリケーション化が進んでいる」(グレゴアCEO)
メインフレーム時代からの大手顧客も多く参加しているCA Worldにおいて、グレゴアCEOは企業における価値観自体を変革していく必要を繰り返し訴える。これは、エンタープライズITの世界でもはやバズワードとなっている「デジタルトランスフォーメーション」の流れに沿うものだが、CAが特徴的なのは、単に「ソフトウェアの力を競争力にせよ」と声をあげるだけではなく、テクノロジー企業の観点から、組織の形態や企業文化にも踏み込んだ改革を訴えている点だ。
グレゴアCEOは、従来の“Built to Last”な企業にみられる構造的な問題点を「企業自体が、予測可能で、緩やかで、限定的な世界のなかで成功するために構成されていた。部門や従業員の役割は硬直的で、投資フローはサイロ化されていた。マネジメントのスタイルも“命令と統制”だった」と指摘する。長年運用されてきた情報システムのサイロ化や、“個別最適”的な開発投資が問題とされることは多いが、それはITだけの問題ではないという見方だ。
「現代的な企業は固定資産に縛られることなく、よりアグレッシブな資産配分によって高い競争優位を得ている」「実験やリスクテイクを常に継続しているかで人材は評価する」「従業員がルールベースの思考を改め、試して学ぶ気質を身につけられるようにしていく必要がある」(グレゴアCEO)
アジャイルは経営と技術の双方にメリット
グレゴアCEOが発するメッセージは、ややもすると精神論に聞こえなくもないが、これらの考え方がCAの製品とどのように関連するのか、オットー・バークスCTOとアイマン・サイードCPO(最高製品責任者)が2日目の基調講演で説明した。同社がもつアジャイル管理やDevOps支援の製品群を組み合わせることにより、卓越した価値を生み出し、顧客との関係性を継続させるためのソフトウェアをつくる「モダン・ソフトウェア・ファクトリー」が実現するとしている。

昨年、トップマネジメントの一員としてCAに加わった
オットー・バークスCTO(左)とアイマン・サイードCPO
CAは昨年、アジャイル管理ツールを提供するRally Software Developmentを買収しており、これを「CA Agile Central」として自社製品のラインアップに加えた。アジャイル開発のプロセスでは、開発を1週間から数週間程度の短期間に分割し、機能を細かい単位で組み上げていくため、マネージャーが手作業でプロジェクトを管理すると、管理作業自体が煩雑になり間違いを起こしやすい。Agile Centralを導入することによって、管理者と開発者は自分が今どの作業に取り組むべきかを一目で知ることができるようになるほか、CAが以前から提供していたプロジェクト/ポートフォリオ管理製品と統合されているので、自社の開発リソースをどのプロジェクトに割り当てるかといった優先度の判断も迅速に行えるようになる。開発自体の高速化に加え、経営層と開発部門管理者の距離を縮めるツールとしても作用するといえるだろう。

アジャイル開発プラットフォームの「CA Agile Central」を利用することで、開発チームが最優先で取り組む業務を可視化し、経営判断と価値創出を高速化できる
サイードCPOは、昨年8月に現職に就く前は米シスコシステムズでネットワーク運用システムを統括しており、2万7000人の開発者が所属する環境にRally製品を導入するというユーザー側の経験をもつ。「大規模な組織にも対応できる管理ツールは、ツールの使い方自体を身につけるのが難しく、そのために開発速度が遅くなるという本末転倒が生じることがあるが、Agile Centralでは使いやすさ、導入のしやすさにも磨きをかけている」(サイードCPO)といい、複雑な画面遷移を経なくても、ユーザーが頻繁に使用する画面や情報にすぐアクセスできるよう、ナビゲーションやカスタマイズの機能を充実させたことを発表した。

ドゥルー・ジェイコブス
バイスプレジデント また、アジャイル管理に関する製品マーケティングを担当するドゥルー・ジェイコブス・バイスプレジデントは、CAはツールを提供するだけでなく、組織にアジャイル開発を導入するための戦略立案や、従業員に対するトレーニングなどのサービスを提供する体制を用意している点を強調する。グレゴアCEOが語ったように、アジャイル導入の成功には、組織の構造や文化まで踏み込んだ改革が求められる。開発プロセスがウォーターフォールからアジャイルに変わることで何が起きるのか、顧客の経営者とIT部門の両方に対し、デモンストレーションやコンサルティングを通じて説明できるのが同社の強みとしている。
DevOpsの目的は「継続的な改善」
CAのアジャイル製品が、ソフトウェア開発のプランニング部分に焦点を合わせているのに対し、DevOpsの目的についてバークスCTOは「モダン・ソフトウェア・ファクトリーが顧客へ届けるのは、単なるソフトウェアではなく、体験そのものだ。体験は継続的に改善していく必要があり、それは年に1回か2回アップデートされる業務ソフトとはまったく異なるスピードとスケールだ」と説明する。DevOpsでは開発チームと運用チームをいかに連携させるかという手法に注目が集まりがちだが、「高速かつ継続的な体験の向上による、顧客価値の創造」という目的にフォーカスする必要がある。
今回のCA Worldに合わせたDevOpsツールの新基軸としては、アプリケーション性能管理(APM)製品での管理対象をクラウドにも拡張し、性能上の問題がどのインフラ上で発生した場合でもそれをいち早く検知し、開発チームにフィードバックすることができるようになったことが挙げられる。また、アプリケーションの性能テスト機能をクラウドサービスとして提供するBlazeMeterを今年9月に買収。開発の早い段階でテストを実施しておくことで、サービスの公開間際になって性能上の問題が発覚するというトラブルを回避できるほか、サービス公開後も性能問題で顧客が離脱する前にその兆候を知ることができる。

キーラン・テイラー
シニアディレクター APM製品を担当するキーラン・テイラー・シニアディレクターは「テストやリリースの自動化から性能の監視まで、ビルド、デプロイ、オペレーションというソフトウェアのライフサイクル全体に対してDevOpsソリューションを提供しているのがわれわれの強み」と話す。また、基幹システム上のデータに対し、ウェブサービスなど他のアプリケーションからアクセスするためのAPIを自動作成する「Live API Creator」も、モバイルアプリケーションやIoTの需要拡大にあわせて引き合いが増えているという。
CA自身、メインフレームを対象にした開発・運用ソリューションという従来の主力製品から、「企業のデジタルトランスフォーメーションを加速する」という新しいビジネスへと軸足を移すただなかであり、顧客やパートナーと課題を共有するソフトウェアベンダーでもある。今回は、グレゴアCEO、バークスCTO、サイードCPOという3トップの経営体制となってから2回目のCA Worldだったが、デジタルトランスフォーメーション実現のための製品ラインアップは昨年と比較しても格段の充実をみせており、戦略実行の道筋がより具体化した格好だ。