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新春恒例 編集部が考えた注目キーワード2017
2017/01/05 09:03
週刊BCN 2017年01月02日vol.1659掲載
キーワードは、IT市場にとって必須のカンフル剤である。例えば、「FinTech」に対して、金融業界に強いSIerから「以前からある取り組みとなんら変わらない」という声を聞くが、キーワードができることで注目され、ユーザー企業が強く意識するようになるなど、市場の活性化に一役買っている。IoTも同様だ。キーワードには突破力がある。そこで、新春恒例の「編集部が考えたキーワード2017」である。本紙記者がITのトレンドを分析し、ひねり出した造語(流行るはずワード)を紹介しよう。(『週刊BCN』編集部)
KEYWORD 一
身代金要求型のウイルスとして何かと話題となっている「ランサムウェア」。被害者が金銭の支払いに応じてしまうケースが多いことから、犯罪史上、最もROI(投資回収率)の高い手法ともいわれている。
ランサムウェアは、ファイルをロックするなどして、開放の条件として金銭を要求する。最近は、組織化が進んでいて、支払い方法などの相談ができるチャット機能をもつランサムウェアも存在する。チャット上では、値下げ要求ができるケースがあるともいわれているが、都市伝説の可能性も否定できない。基本は、金銭の要求に応じてはいけない。日頃は、バックアップなどの事前対応を心がけるべきだ。
そのランサムウェアの進化形が、「ランカクウェア」。回収できるものはとにかく回収してしまえというスタンスで、絨毯爆撃のごとく身代金を乱獲するウイルスである。対処法は、ランサムウェアと同様となる。
KEYWORD 二
特定の組織などを標的にして、サイバー攻撃を行う行為「標的型攻撃」。標的から情報を窃取するのが主な目的となっている。標的型攻撃の犯人は、被害者からみえないようにして攻撃を行う。いわゆる“こそ泥”である。
一方、怪盗ルパンのように、予告してからサイバー攻撃を実行するのが「攻撃型攻撃」だ。立派な犯罪だが、悪徳な富豪を攻撃し、得た情報を現金化して、食糧難にあえぐ子どもたちを救うのであれば、庶民は支持するかもしれな い。
KEYWORD 三
FinTechを皮切りに、教育向けの「EdTech」、医療向けの「MediTech」、農業向けの「AgriTech」など、xTechが各業界向けのITソリューションの総称として使われる傾向にある。以前は、教育ITや医療ITといった表現だったが、xTechとすることで、先進性をイメージできるようになった。
パッケージシステムは、広く普及させるために、汎用化やオープン化の歴史をたどるのが常である。ハードウェアのコモディティ化も、同様の流れといえよう。ところが、ITを活用する現場では、商慣習やビジネスモデルの違いなどから、業界の一部に向けたITソリューションが必要とされる。IoTやAIによって、IT活用の可能性が広がり、業界のくくりではなく、よりニッチな業務に特化したテクノロジーが増えつつある。これを総称したのが、「PinTech」(ピンポイントのテクノロジー)である。
KEYWORD 四
昨年、キュレーションメディアを自称する多数の情報サイトが、実際には盗用記事や真偽不明の情報ばかりで構成されていたことが問題となった。それらのサイトは法的に限りなく“クロ”に近いほか、検索エンジンのアルゴリズムに対して極度な最適化が行われていたため、ユーザーが本来求める信頼性の高い情報が検索結果の下位に押しやられ、ウェブの利便性自体を大きく損ねていたからだ。
このようなビジネスは言語道断だが、問題のサイト群は、いわば人間ではなく「検索エンジンという読者」に向けて記事を発信していた、という点は示唆的だ。APIやAIの活用でさまざまなサービスやデータが自動的につながるようになると、もはや商売の相手は人間ではなく機械となり、機械に好まれる資産をもつ企業が勝者になるかもしれないということだ。「御社の事業はB2Bですか、B2Cですか?」といった問いに、「いえ、B2M(Machine)です」との答えが返ってくる日も近い。
KEYWORD 五
企業会計データをリアルタイムに活用する新しい投資・融資ビジネス「会計投融資」。今年は、これが一気に広がっていきそうだ。投資・融資をする側、資金調達する側、双方のビジネスのあり方にポジティブな影響を与える可能性がある。
調査会社の矢野経済研究所によれば、「目下、日本のFinTech市場を牽引しているのは、クラウド型会計ソフトとソーシャルレンディング」だという。両者が融合したサービスも考えられる。すでに新興のクラウド会計ベンダーは、銀行などの金融機関と連携し、ユーザーの許諾のもと、会計ソフトのデータを融資審査に活用する新しいレンディングサービスを発表している。融資の審査にかかる労力、コスト、時間を圧縮して、短期・少額の融資も可能にしようというコンセプトだ。
さらに、新興ベンダーだけでなく、老舗の会計ソフトメーカー、会計事務所向けシステムベンダーも、金融機関とのデータ共有に続々と乗り出している。なお、「会計投融資」とは財政投融資のもじりである。
KEYWORD 六
ユーザー企業の売り上げや利益を伸ばすための情報システムは、業務効率化などを目的とした旧来型のシステムと区別するため、「SoE(Systems of Engagement)」や「価値創出型システム」「デジタルトランスフォーメーション」といったキーワードが使われている。IT業界の市場拡大を担う領域として、多くのITベンダーが戦略的に取り組んでいる。
ITが新たな領域に進出するのは、IoTやビッグデータ、AIなど、背景に新たな技術トレンドがあるからだ。ところが、新たな技術トレンドゆえ、多くのSIerにとってノウハウが蓄積されていない。チャレンジは必要だが、SoE分野はユーザー企業の顧客に近く、ビジネスに直結するため、失敗がブランド力の低下につながってしまうことも考えられる。例えば、IoTでの個人情報の扱い方には、最大限の配慮が必要 だ。
価値を創出するはずが、価値を喪失する「価値喪失型システム」とならないよう、SIerからユーザー企業にアドバイスするといった対応が求められる。
KEYWORD 七
個人向けのサービスが普及すると、その利便性から、エンタープライズの世界に展開されるというケースがある。企業向けSNS、クラウドストレージ、そして、スマートフォンやタブレット端末の業務利用。なかでも、デジタルネイティブな世代であれば、スマートフォンやタブレット端末の操作性を業務システムに求める傾向がある。
こうしたニーズに対し、インフラ基盤部分で応えるのが「スマートサーバー」である。キーボード不要で、タップやスワイプ、フリック、ピンチイン・ピンチアウトといった指先の操作により、すべての設定が完了するサーバー環境を指す。ソフトウェアでインフラ基盤を制御するSDxの進化版でもある。
KEYWORD 八
デジタル技術によってビジネスモデルの変革を図る「デジタルトランスフォーメーション」。今やIT業界の流行語大賞といってもいいほど頻繁に聞かれる言葉になったが、デジタルビジネスを銘打つ事例の中身をみると、「ソーシャルメディアの分析を開始した」「モバイルアプリとAI(を称する技術)でキャンペーンを実施した」といった段階にとどまっているケースが少なくない。それらも重要な第一歩だが、取り組みの二歩目以降がみえないのは問題である。
デジタルトランスフォーメーションの実際が、掛け声の盛り上がりに反し精彩に欠けるのは、デジタル空間で価値を生むことが目的であるという誤解によるものではないだろうか。デジタル企業の手本として挙げられるUberやAirbnbも、ビジネスのフィールドは現実空間。真に実現すべきは、デジタル技術によってアナログ世界を変革する「アナログトランスフォーメーション」であることを忘れてはならない。
KEYWORD 九
ITとOT(運用技術)の融合を意味する「ITOT」。OTは、さまざまな産業分野で装置のモニタリングや運用を制御する技術であり、その代表例としてFA(ファクトリーオートメーション)があ る。
ITとOTは、これまであまり接点がなかったが、IoTによって工場の装置などからデータを取得できるようになることで、急接近している。製造業でいえば、ドイツが推進する「インダストリ4.0」も、ITOTの一つということになる。
KEYWORD 十
人工知能(AI)ブームが続いている。多くの企業がAIに取り組むようになり、さまざまな情報が発信されるようになったことで、「人工知能」を「人口知能」と誤変換したと思われる記述が増えた。そこで本誌では昨年、連載の「北斗七星」で人口知能を取り上げて、その意味を「『口(くち)』で辞書を引いたところ、『Aperture』(開き口、すき間)がでてきた。強引だが、意味合いとしてはしっくりくる。『人口知能とは、“すき間に入る知能”である』」と解説した。この解説は、AIにこだわるあまり、やや強引になってしまった。
そこでリベンジというわけではないが、次のように再定義したい。「人とロボットをつなぐ知能」。「口(くち)」ではなく、カタカナの「ロ」というわけだ。人工知能のゴールの一つは、人型ロボットとの融合である。そこでは、人口知能が求められ る。
KEYWORD 一
ランカクウェア
身代金要求型のウイルスとして何かと話題となっている「ランサムウェア」。被害者が金銭の支払いに応じてしまうケースが多いことから、犯罪史上、最もROI(投資回収率)の高い手法ともいわれている。ランサムウェアは、ファイルをロックするなどして、開放の条件として金銭を要求する。最近は、組織化が進んでいて、支払い方法などの相談ができるチャット機能をもつランサムウェアも存在する。チャット上では、値下げ要求ができるケースがあるともいわれているが、都市伝説の可能性も否定できない。基本は、金銭の要求に応じてはいけない。日頃は、バックアップなどの事前対応を心がけるべきだ。
そのランサムウェアの進化形が、「ランカクウェア」。回収できるものはとにかく回収してしまえというスタンスで、絨毯爆撃のごとく身代金を乱獲するウイルスである。対処法は、ランサムウェアと同様となる。
KEYWORD 二
攻撃型攻撃
特定の組織などを標的にして、サイバー攻撃を行う行為「標的型攻撃」。標的から情報を窃取するのが主な目的となっている。標的型攻撃の犯人は、被害者からみえないようにして攻撃を行う。いわゆる“こそ泥”である。一方、怪盗ルパンのように、予告してからサイバー攻撃を実行するのが「攻撃型攻撃」だ。立派な犯罪だが、悪徳な富豪を攻撃し、得た情報を現金化して、食糧難にあえぐ子どもたちを救うのであれば、庶民は支持するかもしれな い。
KEYWORD 三
PinTech
FinTechを皮切りに、教育向けの「EdTech」、医療向けの「MediTech」、農業向けの「AgriTech」など、xTechが各業界向けのITソリューションの総称として使われる傾向にある。以前は、教育ITや医療ITといった表現だったが、xTechとすることで、先進性をイメージできるようになった。パッケージシステムは、広く普及させるために、汎用化やオープン化の歴史をたどるのが常である。ハードウェアのコモディティ化も、同様の流れといえよう。ところが、ITを活用する現場では、商慣習やビジネスモデルの違いなどから、業界の一部に向けたITソリューションが必要とされる。IoTやAIによって、IT活用の可能性が広がり、業界のくくりではなく、よりニッチな業務に特化したテクノロジーが増えつつある。これを総称したのが、「PinTech」(ピンポイントのテクノロジー)である。
KEYWORD 四
B2M
昨年、キュレーションメディアを自称する多数の情報サイトが、実際には盗用記事や真偽不明の情報ばかりで構成されていたことが問題となった。それらのサイトは法的に限りなく“クロ”に近いほか、検索エンジンのアルゴリズムに対して極度な最適化が行われていたため、ユーザーが本来求める信頼性の高い情報が検索結果の下位に押しやられ、ウェブの利便性自体を大きく損ねていたからだ。このようなビジネスは言語道断だが、問題のサイト群は、いわば人間ではなく「検索エンジンという読者」に向けて記事を発信していた、という点は示唆的だ。APIやAIの活用でさまざまなサービスやデータが自動的につながるようになると、もはや商売の相手は人間ではなく機械となり、機械に好まれる資産をもつ企業が勝者になるかもしれないということだ。「御社の事業はB2Bですか、B2Cですか?」といった問いに、「いえ、B2M(Machine)です」との答えが返ってくる日も近い。
KEYWORD 五
会計投融資
企業会計データをリアルタイムに活用する新しい投資・融資ビジネス「会計投融資」。今年は、これが一気に広がっていきそうだ。投資・融資をする側、資金調達する側、双方のビジネスのあり方にポジティブな影響を与える可能性がある。調査会社の矢野経済研究所によれば、「目下、日本のFinTech市場を牽引しているのは、クラウド型会計ソフトとソーシャルレンディング」だという。両者が融合したサービスも考えられる。すでに新興のクラウド会計ベンダーは、銀行などの金融機関と連携し、ユーザーの許諾のもと、会計ソフトのデータを融資審査に活用する新しいレンディングサービスを発表している。融資の審査にかかる労力、コスト、時間を圧縮して、短期・少額の融資も可能にしようというコンセプトだ。
さらに、新興ベンダーだけでなく、老舗の会計ソフトメーカー、会計事務所向けシステムベンダーも、金融機関とのデータ共有に続々と乗り出している。なお、「会計投融資」とは財政投融資のもじりである。
KEYWORD 六
価値喪失型システム
ユーザー企業の売り上げや利益を伸ばすための情報システムは、業務効率化などを目的とした旧来型のシステムと区別するため、「SoE(Systems of Engagement)」や「価値創出型システム」「デジタルトランスフォーメーション」といったキーワードが使われている。IT業界の市場拡大を担う領域として、多くのITベンダーが戦略的に取り組んでいる。ITが新たな領域に進出するのは、IoTやビッグデータ、AIなど、背景に新たな技術トレンドがあるからだ。ところが、新たな技術トレンドゆえ、多くのSIerにとってノウハウが蓄積されていない。チャレンジは必要だが、SoE分野はユーザー企業の顧客に近く、ビジネスに直結するため、失敗がブランド力の低下につながってしまうことも考えられる。例えば、IoTでの個人情報の扱い方には、最大限の配慮が必要 だ。
価値を創出するはずが、価値を喪失する「価値喪失型システム」とならないよう、SIerからユーザー企業にアドバイスするといった対応が求められる。
KEYWORD 七
スマートサーバー
個人向けのサービスが普及すると、その利便性から、エンタープライズの世界に展開されるというケースがある。企業向けSNS、クラウドストレージ、そして、スマートフォンやタブレット端末の業務利用。なかでも、デジタルネイティブな世代であれば、スマートフォンやタブレット端末の操作性を業務システムに求める傾向がある。こうしたニーズに対し、インフラ基盤部分で応えるのが「スマートサーバー」である。キーボード不要で、タップやスワイプ、フリック、ピンチイン・ピンチアウトといった指先の操作により、すべての設定が完了するサーバー環境を指す。ソフトウェアでインフラ基盤を制御するSDxの進化版でもある。
KEYWORD 八
アナログトランスフォーメーション
デジタル技術によってビジネスモデルの変革を図る「デジタルトランスフォーメーション」。今やIT業界の流行語大賞といってもいいほど頻繁に聞かれる言葉になったが、デジタルビジネスを銘打つ事例の中身をみると、「ソーシャルメディアの分析を開始した」「モバイルアプリとAI(を称する技術)でキャンペーンを実施した」といった段階にとどまっているケースが少なくない。それらも重要な第一歩だが、取り組みの二歩目以降がみえないのは問題である。デジタルトランスフォーメーションの実際が、掛け声の盛り上がりに反し精彩に欠けるのは、デジタル空間で価値を生むことが目的であるという誤解によるものではないだろうか。デジタル企業の手本として挙げられるUberやAirbnbも、ビジネスのフィールドは現実空間。真に実現すべきは、デジタル技術によってアナログ世界を変革する「アナログトランスフォーメーション」であることを忘れてはならない。
KEYWORD 九
ITOT
ITとOT(運用技術)の融合を意味する「ITOT」。OTは、さまざまな産業分野で装置のモニタリングや運用を制御する技術であり、その代表例としてFA(ファクトリーオートメーション)があ る。ITとOTは、これまであまり接点がなかったが、IoTによって工場の装置などからデータを取得できるようになることで、急接近している。製造業でいえば、ドイツが推進する「インダストリ4.0」も、ITOTの一つということになる。
KEYWORD 十
人口知能
人工知能(AI)ブームが続いている。多くの企業がAIに取り組むようになり、さまざまな情報が発信されるようになったことで、「人工知能」を「人口知能」と誤変換したと思われる記述が増えた。そこで本誌では昨年、連載の「北斗七星」で人口知能を取り上げて、その意味を「『口(くち)』で辞書を引いたところ、『Aperture』(開き口、すき間)がでてきた。強引だが、意味合いとしてはしっくりくる。『人口知能とは、“すき間に入る知能”である』」と解説した。この解説は、AIにこだわるあまり、やや強引になってしまった。そこでリベンジというわけではないが、次のように再定義したい。「人とロボットをつなぐ知能」。「口(くち)」ではなく、カタカナの「ロ」というわけだ。人工知能のゴールの一つは、人型ロボットとの融合である。そこでは、人口知能が求められ る。
キーワードは、IT市場にとって必須のカンフル剤である。例えば、「FinTech」に対して、金融業界に強いSIerから「以前からある取り組みとなんら変わらない」という声を聞くが、キーワードができることで注目され、ユーザー企業が強く意識するようになるなど、市場の活性化に一役買っている。IoTも同様だ。キーワードには突破力がある。そこで、新春恒例の「編集部が考えたキーワード2017」である。本紙記者がITのトレンドを分析し、ひねり出した造語(流行るはずワード)を紹介しよう。(『週刊BCN』編集部)
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