IBMのクラウドサービス「IBMクラウド」では、企業の基幹業務システムの取り込みを重点施策に挙げる。ユーザーの基幹業務を支える基盤にならなければ、IBMクラウドが、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureに続く第三の勢力としての地位を確立できないと日本IBMでは考えているからだ。決して楽観視できない現状を好転させるには、ビジネスパートナーの協力が不可欠。第一陣としてインテックをはじめとする10社のSIerがパートナーへの参画を表明。パートナー各社はどのような目算があってIBMクラウドを商材として選んだのか。主要パートナーの狙いを聞いた。(安藤章司)

AI活用において
有力な選択肢の一つ

 IBMは昨年末、ベアメタルにも対応したIaaSの「Bluemix Infrastructure(旧SoftLayer)」や、PaaSの「Bluemix」を統合して「IBMクラウド」として再スタートさせた。これにともない、新たなパートナー制度がスタートし、第一陣として10社の主要SIerが参画を表明した。各社が期待するのは、基幹システムを担う環境としてのIBMクラウドである。

 SIerにとっては、ユーザー企業が基幹業務システムを刷新するにあたり、どのような提案をするのかは大きな課題。とりわけオンプレミスや、データセンター(DC)にハウジング(間借り)しているケースでは、クラウドへの移行も有力な候補となるだけに、選択肢の一つとして提案できなければ受注を逃してしまうことになりかねない。

 SIerの判断としても、ビジネス面から「オンプレミスやハウジングはなくならないだろうが、このビジネスが今後、大きく伸びるとは思えない」(SIer幹部)というのが大勢。ユーザー企業に要求されるまでもなく、クラウドの提案は、当然のこととして視野に入ってくる。

 IBMクラウドのビジネスパートナー第一陣として名乗りを上げたインテックの君塚修・クラウドサービス事業部長は、「製造業などのグローバル対応が必要な業種では、いち早くクラウド移行が進んでいる」と話す。世界主要都市に展開するクラウドサービスは数多い。これらから顧客ニーズに合った環境を選び、提案することになる。そうしたなかで、AI活用を視野に入れる場合は、いちはやくブランド化に成功した「Watson」を抱えるIBMクラウドが、「有力な選択肢の一つになる」と、君塚事業部長は捉えている。

単純なリフト&シフトでは
投資対効果は限定的となる

 IBMクラウドは、企業の業務システムで幅広く使われている仮想化基盤の「VMware」にいち早く対応し、「既存システムに手を加えることなくIBMクラウドにリフト&シフトできる」(日本IBMの吉崎敏文・執行役員ワトソン&クラウドプラットフォーム事業部長)ことを強みとしている。とはいえ、既存の基幹業務システムをそのままリフト&シフトしただけでは、投資対効果が薄いばかりか、コスト削減にもならないというのが、ビジネスパートナーのほぼ一致した見方だ。

 そうしたなかでIBMクラウドのビジネスパートナーであるクリエーションラインの鈴木逸平取締役は、コストメリットよりもシステムの柔軟性に着目し、「基幹システムからクラウド移行できる部分を徐々に切り出していく“段階的移行”」を推奨する。

 既存の基幹システムが、完全に統合されたモノリス(一枚岩)型とすれば、クラウド時代はコンテナ型仮想化やマイクロサービスなどの分割型だと表現できる。分割型であれば、一部分を手直ししても、他の部分に影響がおよびにくいアーキテクチャにできる。鈴木取締役は、「モノリスを少しずつ削り取っていくように移行するのが現実的だ」と話す。同時に、DevOpsに代表される開発と運用を一体化する手法を採り入れれば、フロントエンド(情報系)の変化に合わせてバックエンド(基幹系)も柔軟に変化適応できるようになる。

 IBMクラウドが業界に先駆けてVMwareに対応したことについては、「ビジネスの大きな追い風になる」(ベル・データの松山誠司・オープン&クラウド推進部課長)とみている。VMware上で稼働する基幹システムは数多くあり、そのバックアップ先としてIBMクラウドが有力な選択肢になり得るからだ。そのため、「VMwareのもつサーバーやネットワークの高度な仮想化基盤を使うことで、既存システムに手を入れることなく、スケーラブルで本番稼働もできるバックアップ環境を構築する」というビジネスが、まずは活性化すると、松山課長は期待している。

Watsonを使ったシステムと
基幹システムの連携が容易

 もう一つ、基幹システムのクラウド移行で大きな課題となるのが、時代に合ったサービスをどう取り込んでいくかだ。

 エス・アンド・アイがIBMクラウドのパートナーになった理由の一つに、「Watsonを使った新規システムと既存システムのつなぎ込みが、非常に秀逸であること」(エス・アンド・アイの川辺隆史・ストラテジックサービス統括部長)を挙げる。

 IBMクラウドは、SoftLayer時代から受け継いできたベアメタルやVMwareに対応したIaaS層と、Watsonを含むPaaS層が垂直的に統合されている。

 「オンプレミス環境とIaaS層を専用線でつなぎ、IBMクラウドの内部からWatsonを使ったシステムに接続することも可能」(同)と、基幹系システムの拡張を強く意識した設計になっている。

 基幹系システムの移行は、「3~5年のスパンでみる必要がある」と、ミライト情報システムの中登義仁・基盤システム部部長が指摘するように、足の長い商談になる。中長期の視点でポスト・オンプレミス/ハウジングを考えると、エンタープライズ分野で実績のあるIBMという点で、IBMクラウドは有力な選択肢の一つになるという。とはいえ、ビジネスパートナー各社は、他のクラウドサービスを扱っている。そこにどう切り込んでいくかも、IBMクラウドの戦略として重要となる。