LINEが、ブロックチェーン技術を応用した「LINEトークンエコノミー」構想を立ち上げた。一部先進的なサービス開発者の間で注目される「分散型アプリケーション」の仕組みを提供し、この領域での先行者として存在感を高めようとする動きだ。開発者とユーザーにとって魅力的なプラットフォームになれるかに加えて、規制の壁を超えられるかが課題となる。(日高 彰)
出澤剛社長
主にフィンテック分野でのビジネス展開が検討されているブロックチェーンだが、取引内容の改ざんが困難であるという特徴を生かし、一部ではゲームやブログサービス、シェアリングサービスなどのシステムにも応用が始まっている。これらは、チェーンに参加するノードがデータベースを共有し、相互に取引内容を監視・承認する仕組みの上に構築されることから、「分散型アプリケーション」(DApp、ダップ)と呼ばれている。
DAppの特性が最も生かせるのが、利用状況に応じてユーザーにポイントを付与する形態のサービスだ。サービス提供者や一部の利用者によって、報酬体系や過去の利用履歴が恣意的に変更されるといった事態を防げるため、ステークホルダーにとって公正な透明性の高いサービスを実現できる。
しかし、DAppに関心のあるアプリケーション開発者もほとんどの場合、自社で独自のブロックチェーンや、ポイント流通網を構築するのは困難だ。そこでLINEは、「DAppのプラットフォーム」に相当する仕組みを提供。まずはLINE自身がQ&Aサービス「Wizball」、未来予想の投票サービス「4CAST」を公表したが、年内に開発ツールキットを公開し、サードパーティーの参画を募集する予定だ。
ベースとなるブロックチェーン技術は、韓国のICONファウンデーションと共同開発。チェーンに参加する各DAppが1ノードとなるコンソーシアム型のブロックチェーンで、ユーザー(日本居住者以外。後述)にはDAppの利用に応じて、LINE子会社のLINE Tech Plusより仮想通貨「LINK」(リンク)を付与する。投機的な参加を防ぐため、LINKはサービス利用に対する報酬としてのみ発行し、LINEが直接売り出すこと(ICO)はしない。
LINEが9月27日に開催した発表会で、出澤剛社長はDAppsプラットフォームをメッセンジャーアプリに続く新たな事業の柱に育てていく意思を強調。「ブロックチェーンや仮想通貨関連のビジネスでは、圧倒的に強いプレイヤーはまだいない。新しくグローバルに出て行くチャンスがある領域だ」と述べ、欧米もターゲットに含めたグローバル事業として展開する意向を示した。このため、日本や一部アジア諸国で普及しているLINEのブランドではなく、あえてLINKという別名で仮想通貨や関連するサービス群を展開する。
目下、最大の課題は法規制だ。日本に居住するユーザーには当面、DAppを利用してもLINKは付与されない。ユーザーは代わりに「LINK Point」がもらえるが、これは「LINEポイント」に固定レートで変換できるもので、仮想通貨ではなく昔ながらの企業ポイントに過ぎない。金融当局による規制対象となることを避けているためとみられるが、開発者にとっては、LINEの企業ポイント網に取り込まれるだけならうまみは少ない。
LINEも仮想通貨交換業者の登録手続きを開始しているが、相次ぐ流出事件などで仮想通貨業界への見方は厳しくなっている。LINEの構想が本格稼働するのは、国内での仮想通貨をめぐる議論が落ち着いてからになりそうだ。