AzureがAWSに追いつく日は近いのか――。日本マイクロソフト(平野拓也社長)がAWSに対する追撃姿勢を強めている。高橋美波・執行役員常務パートナー事業本部長は、「一昨年から進めてきたパートナーエコシステムの再構築策が実を結びつつある」と手応えを語る。(本多和幸)
加速する「量より質」への転換
同社はMM総研の2018年12月の調査結果を基に、クラウド移行を検討するユーザーが選択するサービスとしてAzureが47.1%の支持を得ていると発表した。IaaS/PaaSのトップベンダーであるAWSは24.2%だったという。1年前の調査では、Azureが13.2%、AWSが48.3%でAWSが圧倒的だったが、今回の調査ではAzureが1年前のAWSと同程度の支持率を獲得したことになる。
高橋美波
常務
その要因として、20年1月にサポート期限を迎える「Windows Server 2008」のマイグレーション施策が功を奏している。同社はWindows Server 2008環境をAzureにリフト&シフトする場合に限り、延長セキュリティー更新プログラムを3年間無償で提供する方針を示し、Azureへの動線を強化。他社クラウドよりも低コストでWindows Server 2008環境のクラウドマイグレーションを実現できる制度を提示した。また、戦略パートナー57社と連携し、顧客ごとの課題に合わせた適切なマイグレーションを支援する「マイクロソフトサーバー移行支援センター」を設立したことも市場の支持につながった。
一方で、クラウドビジネスやデジタル変革の需要に合わせるかたちでパートナーエコシステムを強化してきたことも、Azure成長の追い風になっている。従来、日本マイクロソフトのパートナーエコシステム戦略は規模の面でのアピールが目立っていたが、この半年でパートナーとの協業における選択と集中を尖鋭化させ、「量より質」への転換を加速した。パートナー支援機能を一手に担う日本マイクロソフトのパートナー事業本部は約1万社のパートナーとの協業窓口になっているが、18年6月期からは重点パートナーを500社に絞り、Azureを活用した産業別ソリューションの開発や共同マーケティング、案件開拓などに取り組んできた。この半年は、重点パートナーの数を300社までさらに絞り、Azure上でのソリューション構築や先進導入事例の創出に努めてきたという。
パートナーにAzureを選んでもらう体制ができた
高橋常務は、「特に力を入れたのがグローバルSIerやグローバルISV、AIソリューションベンダーとの協業」だと説明する。「国内の大手SIerなど従来の主要パートナーには、CSPパートナーとしてAzureを活用したマネージドサービスの確立を進めてもらい、成果が現われてきている。一方で、グローバルSIerやグローバルISVが持っている、よりクイックかつ容易にエンドカスタマーが使えるようなソリューションや、先進のAIソリューションをAzure上にラインアップして市場を刺激したことで、Azureの価値を高めることができた」
この再構築したパートナーエコシステムが機能し、19年6月期は、上半期のみで約1200のビジネスアプリケーションをAzure上に構築し、631案件の共同販売を行ったという。Azureの年間契約額は前年度比640%増を見込む。この背景には、マイクロソフトの直販営業部隊が、対面営業、インサイドセールスを問わず、パートナーソリューションの拡販に注力したこともある。重点パートナーを絞ってAzureの価値を市場にしっかりアピールできるソリューションをつくった後に、案件を獲得し、事例をつくるところまで日本マイクロソフトが投資してサポートしたかたちで、「それこそがAWSにはできない、マイクロソフトならではの戦い方」(高橋常務)というわけだ。高橋常務は、「おかげさまでパートナーの満足度が非常に高く、マルチクラウド戦略のSIパートナーにAzureを選んでもらえることが今後の成長にとっては非常に大きい」と話す。
ただし、技術者の質と量の観点では、まだAWSに及ばないという課題意識もある。19年6月期中に1万人の認定技術者を育てて裾野を広げるとともに、データサイエンティスト向けのトレーニングも充実させたい考えだ。高橋常務は、「これからはPaaSがクラウドの主戦場になるはず。そこで価値を生み出すデータサイエンティストが、どれだけAzureびいきになってくれるかが勝負を決める」とみている。