【バルセロナ発】米レッドハットは、2月末にスペインで開催されたモバイル通信見本市「MWC Barcelona 2019」で、楽天モバイルネットワークのネットワーク基盤に「OpenStack Platform」を提供したことを発表した。汎用サーバーとソフトウェアの全面採用による携帯電話網の構築は世界初の試みとなる。ITの世界では当たり前となったオープンソースのクラウド技術が、通信事業者のインフラ構築のあり方を大きく変えることになる。(日高 彰)
仮想化ネットワークで構築・運用コストを大幅削減
専用機器をサーバーに置き換え
楽天モバイルネットワーク(以下楽天)は、“国内第4のキャリア”として今年10月から携帯電話サービスを開始する。従来、携帯電話事業者は通信機器ベンダーが提供する専用の設備を用いてネットワークを構築してきたが、楽天はそれらを汎用サーバーとソフトウェアに置き換え、末端に設置される無線機を除き、全てのネットワークインフラを同社のプライベートクラウド上に構築した。このクラウド基盤として、企業向けのIaaS構築ソフトとしてデファクトスタンダードの地位にある、レッドハットのOpenStack Platformが採用された。
楽天は、今回同社が採用したアーキテクチャーを「完全仮想化クラウドネイティブネットワーク」と呼んでおり、コストと柔軟性の両面で大きなメリットを得られるとしている。通信機器ベンダーによる専用ハードウェアに比べ、市場ボリュームが圧倒的に大きな汎用サーバーやイーサネットスイッチを用いることで、設備のコストを下げることができる。既存の携帯電話事業者でも、パケット交換機や加入者管理機能の仮想化は進められているが、楽天では基地局の制御や信号処理を担う無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)部分まで汎用サーバーで構築した。楽天はサービス開始にあたり、ネットワークの構築に要する設備投資額を「6000億円以下」としており、全国網を整備するための費用としては少なすぎるという見方もあったが、設備費用の中で大きな割合を占めるとされるRAN部分の仮想化を実現したことで、コスト圧縮にめどがついた形だ。
レッドハット
クリス・ライトCTO
MWC会場でレッドハットのクリス・ライトCTOは「楽天のプラットフォームを構成する技術が、オープンソースソフトウェアに集約されているのは大変刺激的なことだ」と話し、同社がこれまで一般企業向けに提供してきたオープンソースのクラウド技術が、携帯電話事業者の基幹インフラ向けに採用された意義を強調する。
楽天モバイルネットワーク
タレック・アミンCTO
また、楽天のタレック・アミンCTOは「コアからエッジまでが、水平的に統合された単一の仮想化インフラの上にあるべきと私たちは考えている」と述べ、OpenStackを採用した仮想化ネットワークでは、単に設備のコストが下がるだけでなく、運用の大部分を自動化することができるほか、新サービスの追加がより迅速に行えるといったメリットもあると説明。例えば、同社は来年前半にも5Gのサービスを開始する意向を示しているが、他の携帯電話事業者では既存の4G網と別に5Gのネットワークを構築する必要があるのに対し、楽天は末端の無線設備以外は物理的な構成を変更しなくても5Gを導入できるという。
300人の認定技術者養成へ
その一方で、アミンCTOは「この次世代のネットワークを運用・管理するにあたっては、これまでとまったく異なる考え方が必要になる」と話し、通信機器ベンダーによる専用製品で垂直統合されていた従来のネットワークと、さまざまなソフトウェアによって構成される仮想化ネットワークの取り扱いでは、別のスキルが求められると指摘する。
そこでレッドハットでは今回、同社が実施している技術者の教育・資格制度に、新カテゴリーとなる「認定アーキテクトプログラム:Telco Cloud」を追加した。仮想化ネットワークに必要となるクラウド基盤の構築に必要な知識を習得するためのプログラムで、教材や認定試験が全世界に向けて提供される。アミンCTOは、この資格をもつ技術者を楽天として300名以上に増やしていきたいとコメントしており、新たな認定プログラムの開始によって、通信技術者の間でもクラウド技術の習得が加速すると予想される。