ISVの成長フィールドはSaaS市場にあり――。SaaSビジネスの基盤となるサービスを提供するベンダー3社の日本法人が、ISV向けのSaaS化・サブスクリプションビジネス化支援プログラムを開始した。3社ともAWSを自社サービスのインフラとして活用しており、アマゾン ウェブサービス(AWS) ジャパンとも協業する。同プログラムはスタートアップ企業も支援対象だが、メインターゲットはSaaSビジネスやサブスクリプションビジネスに移行できていない既存のISVだ。(本多和幸)
Auth0、CircleCI、ストライプジャパンとAWSジャパンが協業
SaaS化「三種の神器」
認証サービスのAuth0(藤田純カントリーマネージャー)、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)サービスのCircleCI(森本健介カントリーマネージャー)、決済サービスのストライプジャパン(ダニエル・ヘフェルナン代表取締役)の3社は6月3日、日本市場でのSaaSビジネス、サブスクリプションビジネスの普及促進を目的としたISV支援プログラム「Go_SaaS 三種の神器」を共同で提供すると発表した。今後2年間で100社以上のSaaS事業参入を目指す。
3社はプログラム名のとおり、ID管理、CI/CD、決済をパッケージソフトのSaaS対応における「三種の神器」と位置付ける。プロダクト販売からインターネット経由のサービス化、サブスクリプションモデルのビジネスにシフトするには、ID管理、オンライン決済や継続課金への対応が必要になる。さらに、顧客エンゲージメントを継続的に強化しサブスクリプションビジネス化を成功させるためには、ユーザーからのフィードバックを迅速に製品のアップデートに反映するための開発・デリバリー環境も必須だ。それぞれをスクラッチでパッケージソフトベンダーが独自に構築するのはハードルが高く、リソースに余裕がないISVにとっては、この三種の神器をいかに整備するかがSaaS化における大きな課題になっているという。3社はそれぞれがクラウドサービスとして提供するID管理、CI/CD、決済を組み合わせて提供することで、「ISVはSaaS化に必要な機能・環境のスピーディーな実装ができ、運用負荷も低減できる」としている。また、3社とも料金体系は従量課金制で無料プランも用意しており、ISVにとってはスモールスタートしやすく、SaaSの開発・運用コストも抑えられる。
プログラムの内容としては、3社とAWSジャパンが共同で無償のオンボーディング(教育)セミナーを開催するほか、各社のサービスの導入相談や技術支援のサービスも無償で提供する。またストライプジャパンは、同プログラム向けに決済総額が250万円に達するまで決済手数料が無料になる特別クーポンも用意した。さらに、同プログラムを活用するISVがAWSのパートナープログラムに参加している場合は、機能検証やPoC用のAWSファンドを利用できるほか、AWSジャパンからプロモーション支援や販売支援なども受けられる。
仕掛人は元AWSの小島氏
3社がGo_SaaS 三種の神器を立ち上げるにあたって主導的な役割を果たしたのが、日本におけるAWSのユーザーコミュニティー「JAWS-UG」を発足させるなどAWSジャパンのビジネス拡大に大きく貢献した経歴を持ち、現在はAuth0、CircleCI、ストライプジャパンの各社にアドバイザーやエバンジェリストとして関わっている小島英揮氏だ。小島氏は同プログラムを構想した背景について、「ISVがこれから成長していくためには、調査会社の市場予測などを見てもSaaS化を前提にすべきなのは明らか。そのために、技術的、コスト的、そして組織文化的な課題の解消を支援するプログラムが必要だと考えた」と話す。
小島英揮 氏
教育セミナーでは、SaaSビジネス、サブスクリプションビジネスに関するナレッジやユーザー事例を交えた各種ツールの活用方法などを紹介するほか、2000人規模に及ぶ3社のユーザーコミュニティーとの接点も設け、「プログラムに参加したISVが、DevOpsや継続的なセルフラーニングといったクラウド的な文化を吸収する伴走者的な役割も果たしていく」(小島氏)という。セミナーには技術者だけでなく経営層の参加も促し、ISVの変革を加速させたい意向だ。
プログラムに参加するISVの獲得は、主にAWSジャパンがその役割を担う。同社はGo_SaaSプログラムをテコに、自社のISVパートナーの拡充も狙う形だ。小島氏は、「Go_SaaS 三種の神器プログラムはISVにとってメリットがあるのはもちろん、利用が広がることでAWSも3社もユーザーが拡大していく『三方よし』のスキームになっている」と強調する。
AWSジャパンの阿部泰久・パートナーアライアンス統括本部テクノロジーパートナー本部部本部長も、「より簡単かつ効率的にSaaSやサブスクリプションサービスを開発・提供できるISVが増えると期待している。AWSとしてもプログラムを一緒に盛り上げていきたい」とコメントしている。