大手SIerがデジタル変革を切り口とした海外ビジネスを加速させている。SCSKは、リースやキャッシュレス決済などの金融サービス、MaaSをはじめとするスマートシティ分野の商材を軸にインドネシアとミャンマーに進出。CAC Holdingsは、オーストラリアに有力顧客を持つインドネシアのSIerをグループに迎え入れた。東芝デジタルソリューションズは海外に幅広い販路を持つ三井物産と組むことで、新規案件を獲得している。これまで一部のSIerを除いて伸び悩む傾向があった海外ビジネスだが、デジタル変革の潮流に乗るかたちで成長市場や新規分野への投資を増やす動きが活発化している。(安藤章司)
持っていく商材を明確に決める
SCSKは12年ぶりとなる海外法人をインドネシアとミャンマーに開設。2019年末から本格的に同地域への進出を始めた。進出に当たってはリースやキャッシュレス決済、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)などのスマートシティ関連と、明確な商材を決めている。インドネシアとミャンマーの急速な経済発展によって自動車やオートバイといった高額商品を購入する機会が増えており、未整備な部分が多いとされるリース関連システムの需要増を見込む。並行して、急速に普及が進んだスマートフォンを使った決済やMaaSの需要も取り込んでいく。谷原徹社長は、「ターゲットとする領域を明確にし、自社商材を中心としたサービス提供型のビジネスを伸ばす」と話す。
SCSK 谷原 徹
社長
21年3月期までの5カ年中期経営計画で「グローバル展開」を掲げていてきたものの、なかなか明確な方向性を打ち出すことができなかった。だが、国内でユーザー企業向けのデジタルトランスフォーメーション(DX)支援や、中計で推し進めてきた「労働集約型ビジネスからの脱却」「サービス提供型ビジネスへのシフト」によってデジタル変革を支援する商材が揃ってきたことから、ASEANの地場の成長市場に向けて特色のあるビジネスを伸ばせると判断した。
地場の成長市場に狙いを定める
ミャンマーではここ数年でスマートフォンが急速に普及し、スマホを起点としたキャッシュレス決済やMaaSなどのビジネスが次々に立ち上がっている。スマホ用のアプリ開発が先行しており、バックヤードの基盤部分の整備が追いつかない状況。そこで、SCSKが長年にわたって積み重ねてきたIT基盤技術を活用し、ミャンマー国内に決済をはじめとする基幹システムの運用に耐えられる信頼性と安全性を持ったクラウド基盤の立ち上げを視野に入れる。また、インドネシアでは、ASEAN最大の人口を抱え、金融や交通、流通・小売りといった産業が伸びていることから、同国においてもリースや決済などの金融分野や、最新のデジタル技術を活用したMaaS、スマートシティ分野でのビジネス拡大を見込む。
SCSKでは、07年に中国で海外法人を設立して以降、積極的な海外進出はしてこなかった。思うように地場市場に食い込めず、海外進出している日系企業の情報システム支援にとどまっていたのが実情で、事業拡大は見込みにくい状況が続いていた。このため、住友商事グループをはじめとする日系企業の情報システム支援は、今回の進出の主眼からは意識的に外している。
アジャイルやCPSで変革を支援
CAC Holdings(CAC-HD)は、インドネシア・バリ島に実質的な拠点を置く中堅SIerのミトライスを19年10月にM&Aによってグループに迎え入れた。ミトライスは従業員数470人余りで、アジャイル方式の開発手法を強みとし、インドネシア国内のみならず、オーストラリアにも進出している。
「成長市場に投資をする」という方針のもと、同社はインドやASEANでのM&Aを積極的に手掛けており、「ミトライスが加わったことによってIT市場が伸びているオーストラリアにも進出することができた」と酒匂明彦社長は話す。伝統的にウォーターフォール方式の開発手法に馴染んでいるCAC-HDグループにとって、ミトライスが強みとするアジャイル開発は、「お互いの強みを補完できる関係が築けるとともに、DX支援といったデジタル領域での競争力も高められる」と期待している。
東芝デジタルソリューションズは、三井物産との提携を通じて、三井物産が一部出資するスペインの自動車部品メーカーやメキシコの火力発電所、英国の鉄道会社などのデジタル変革プロジェクトに相次いで参画している。製造設備や発電所、鉄道のフィジカル(物理)から取得したデータをデジタル技術(サイバー)によって分析。その成果をフィジカルに戻して改善していくサイバーフィジカルシステムを軸とした「デジタル変革の推進」をビジネスとして本格化させている。
日本のSIerの海外ビジネスは、NTTデータなど一部を除いてなかなか大きく伸ばせないジレンマを抱えていた。だが、世界的なデジタル変革の潮流に乗るかたちで、日本のSIerが強みとする基幹系システムの領域や、産業や業種に密着したSIの知見を生かした営業活動によって、海外ビジネスの拡大に弾みがついている。