デジタルトランスフォーメーション(DX)の気運の高まりを捉え、DX支援をこれからのビジネスの主軸に据えようとしているITベンダー自身も変革を進めようとしている。3月末を期末とする国産大手ベンダーからは新年度の経営体制が発表される時期になっているが、目立つのは人材登用の面での戦略の変化だ。生え抜き志向が強かった国産大手ベンダーが、DX支援ビジネスで先行する外資系企業の幹部を要職に招き入れる動きが加速しつつある。(日高彰、安藤章司、本多和幸)
富士通
DX新会社社長はPwCから招へい
富士通が1月30日に発表した新年度(21年3月期)の経営体制は、「IT企業からDX企業への変革を加速する」がテーマになった。コーポレート各機能を社長直轄にすることで意思決定の迅速化を図るほか、従来の営業、SE部門を統合してサービス軸で組織を再編。グローバルにビジネスを展開する製造、流通、金融の大手企業を担当する「グローバルソリューション部門」を新設した。一方、公共・社会インフラ分野や中堅規模以下の企業向け、地方市場など国内特化のビジネスについては、子会社の富士通マーケティングを含めて「JAPANリージョン」を新たに構成して成長を図る。
DX企業への変革を進めるための重要施策として、外部人材を積極的に招へいしていく方針であることも明らかにした。3月末での退任を発表しているSAPジャパンの福田譲社長が、4月1日付で富士通の執行役員常務CIO兼CDXO(最高DX責任者)補佐に就任する。CDXOは時田隆仁社長自身が務めており、経営トップの右腕として、グローバルで社内のDXをけん引する役割を担う。
4月1日付で富士通のCIOに就任する
SAPジャパンの福田譲社長
また富士通はDXビジネスの専門会社として4月1日に新会社を発足させる計画をすで発表しているが、この新会社の社名が「Ridgelinez(リッジラインズ)」に決定したこと、さらに社長にはPwCコンサルティングの今井俊哉・ 副代表執行役シニアパートナーが就任することも発表した。SAPジャパンの福田社長と合わせて、富士通の“DX化”のカギを握る要職に、グローバル市場でDXビジネスをリードするITベンダーやコンサルファームから人材を採用することになる。
このほか、同じく4月1日付で、CMO理事に日本マイクロソフトの山本多絵子・業務執行役員パートナー事業本部パートナーマーケティング統括本部長が、3月1日付でM&A戦略担当理事にマッキンゼー・アンド・カンパニーのニコラス・フレイザー グローバルディレクターが就任する予定だ。同社によれば、今回の外部人材登用は第一弾であり、経営幹部としての招へいは「今後も十分に可能性がある」としている。
また、田中達也・前社長時代に富士通本体の役員が主要子会社社長を兼務する体制が敷かれたが、これも来年度からは解消される。対象となった子会社のうち、富士通マーケティングは昨年6月、富士通ネットワークソリューションズは同9月に専任の社長がすでに就任しているが、来年4月1日付で、富士通エフ・アイ・ピー(FIP)、富士通ビー・エス・シー(BSC)も同様の措置が取られる。富士通FIPは貴田武実・副社長が社長に昇格。島津めぐみ社長は4月1日以降、本体の執行役員常務デジタルインフラサービスビジネスグループ長に専念する。富士通BSCも同様に岡浩治副社長が社長に昇格し、林恒雄社長は本体の執行役員常務を継続して務め、JAPANリージョンの公共・社会インフラビジネスグループを担当する。「大きな方針転換があったわけではない」(同社広報)というものの、“DX企業”に向けた富士通グループの体制最適化を見据え、各子会社の役割の再定義を図る動きと見ることもできそうだ。
東芝
エコシステム型のデータビジネス
東芝グループでも、DXをリードすべくビジネスを再構築しようという動きは加速している。18年4月には、東芝デジタルソリューションズが、顧客のDX支援をワンストップで担う専門会社「東芝デジタル&コンサルティング」を設立。今年2月3日には、東芝の新たな100%子会社として「東芝データ」を設立したことを明らかにした。
グループ内外の企業と協業しながら購買や健康、行動などに関するデータを取得し、新しいデジタルサービスの振興に役立てるという。まずは、東芝テックのPOSレジの電子レシートサービス「スマートレシート」からユーザー個人の同意済みデータを取得し、この生活者の購買データを核として、データの活用方法を研究する。ニュース配信のグノシーや健康医療の関連ビジネスを手掛けるシーユーシーなどの外部企業と協業。グノシーは生活者の購買行動により合ったコンテンツを配信したり、シーユーシーは食生活から生活習慣病を予防したりするといった取り組みを始める。将来的には、データの販売や、データを活用したデジタルビジネスの利益をシェアするケースなど、複数のビジネスモデルに発展させていきたい考えだ。
シーメンスから転身した東芝の
島田太郎・執行役常務CDOが東芝データの代表も兼務
東芝データの代表取締役は、東芝の島田太郎・執行役常務CDO(最高デジタル責任者)が兼務する。島田代表は18年にシーメンス日本法人の専務執行役員から東芝のCDOに転身した経歴を持つ。島田代表は「マーケティングやパートナーづくりを得意とする外部人材も積極的に採用し、さまざまな企業とのエコシステムを形成する」方針を明らかにしている。また、海外人材も拡充していく。東芝グループ内外から多様な人材を集めることで、従来の東芝になかった新しいデータ活用型ビジネスの立ち上げを目指す。