SAPジャパンは福田譲社長が3月31日に退任し、4月1日付で鈴木洋史常務執行役員が社長に昇格する。同社は2月19日、記者会見を開き、新体制における経営戦略を発表。福田社長と鈴木常務が登壇した。SAPは2025年だったERP旧製品のサポート期限を27年まで延長すると発表したばかりだが、鈴木体制では、単に既存ユーザーの次世代ERPへの移行を支援するだけでなく、デジタルトランスフォーメーション(DX)をより網羅的に支援していく方針であることを強調した。(銭 君毅)
S/4HANAへの移行は順調
フォーカスは運用支援
導入後を見据えた
カスタマーサクセス戦略
1997年にSAPジャパンに入社した福田社長は、14年に同社初の生え抜きの社長となった。就任後は“SAPジャパンのGLOCALIZATION”を中心施策に据え、国内でニーズの高いERP事業をメインにクラウド化支援や業種・業務別提案の充実を図り、次世代ERP「S/4HANA」をなどの拡販を進めてきた。
結果として、SAPジャパンは福田社長就任後から現在までの5年間で1.5倍の成長を達成。19年の総売上高は前年比で15%増を記録したという。福田社長は「就任時に掲げた目標を振り返ると、達成度合いに強弱はあるが、おおむね全てにリーチできたのではないか」と手応えを語った。
福田社長は次のキャリアとして、既に4月1日付で富士通の執行役員常務CIO兼CDXO(最高DX責任者)補佐に就任することが決定しており、「基本的に日本の未来を助けていきたいという気持ちは同じ。SAPジャパンが非常にいい状態になった今、違うところ違う方法でそれを目指していきたい」と語った。
福田 譲 社長
一方、次期社長の鈴木常務は、15年1月にコンシューマ産業統括本部長として入社し、小売り、卸、運輸、製薬、不動産などといった業界の大手ユーザーを担当してきた。18年からはインダストリー事業統括として全業種の大口顧客を担当。福田社長とともにSAPジャパンの成長に貢献したという。特に製造業に強かった同社の製品を非製造業にも展開し、「製造業と非製造業のビジネスの割合を半々近くまで広げた」(鈴木常務)実績がある。また、それらの新たな顧客の中にはS/4HANAのユーザーも多く含まれる。
今回の会見で、ユーザーの「デジタル変革」になくてはならない存在となることを次期社長としての抱負に掲げた鈴木常務は、今後の方針として、SAP製品の利活用促進と定着化支援に注力していく方針であることを明らかにした。「お客様のデジタル化へのプロセスは導入して本稼働すれば終わりではなく、むしろそこがデジタル変革の始まり。製品を使い倒してもらい、期待通りの価値を提供していく必要がある」と強調する。すでに、運用時の課題解決を支援するカスタマーサクセス部門を19年1月に立ち上げており、ユーザーがS/4HANAへの移行を完了した後、同社の成長の核になる機能と位置付ける。
サポート延長で
全既存顧客を取り込めるか
福田体制から引き継ぐ課題もある。SAPは主力製品の業務アプリケーション群「SAP Business Suite 7」のメインストリームサポートを従来の25年から27年末まで延長すると発表しているが、移行先となるS/4HANAは従来製品の単純な後継というわけではなく、マイグレーションには完全な別製品の導入と同程度の負荷がかかるケースもある。同社の従来製品を利用している企業は2000社以上にのぼると言われ、サポート切れに伴うS/4HANAへの移行需要にどう対応していくかは、関連の人的リソースの整備も含めて近年の大きな課題だった。
米国のユーザーグループ「ASUG(Americas’ SAP Users’ Group)」の調査では、S/4HANAへの移行を計画していないユーザーはおらず、ドイツのユーザーグループである「DSAG(German-Speaking User Group)」でも、S/4HANAへの投資が著しく伸びていて移行は順調に進んでいるとしている。SAPジャパンは現時点で国内の移行状況を発表していないものの、「JSUG(Japan SAP Users’ Group)」によると従来のERPからS/4HANAへ「移行済み」「移行中」「検討中」としているユーザー会員の割合が80%まで進んだと発表している。
鈴木常務は「グローバルと比べてS/4HANAへの移行が遅れているわけではなく、クラウド化などの観点ではむしろ日本のほうが進んでいる」と語る。今回のサポート延長では、「S/4HANAを検討する際に本当の意味での変革を進め、デジタル基盤の再構築をしていこうと考えているユーザー」に対してより将来を見据えたデジタル基盤を構築するための時間を提供できたという見方を示す。
4月1日付で社長に就任する
鈴木洋史常務
また、これらの戦略を後押しするための人材不足については、19年時点で「約2500名の認定コンサルタントが新たに生まれており、その内1500名がS/4HANAのコンサルタント」(鈴木常務)だという。また企業単位でも、19年の1年間で新たに約60社がパートナープログラムに加わっており、エコシステムは拡大している。「全ての既存顧客をS/4HANAに移行させることが目標」と鈴木常務は強調しており、今後もパートナープログラムを強化しつつ、ERP刷新の需要を取り込んでいく方針だ。