富士通は3月9日、今年1月に設立したデジタルトランスフォーメーション(DX)新会社・リッジラインズ(Ridgelinez)の事業戦略と、春から経営幹部に加わる外部登用人材を紹介する説明会を開催した。時田隆仁社長は、富士通自身がDX企業に変革するために最も重要な要素が「人」であると強調。DX事業においては、これまでの同社グループとは異なる採用方針や給与体系などを積極的に取り入れていく考えを打ち出した。(日高 彰)
グループで最大2000億円の波及効果目指す
昨年9月に発表した新たな経営方針の中で、富士通グループはシステム構築を中心とした「テクノロジーソリューション事業」で、2022年度までに売上高3兆5000億円、営業利益率10%の達成を掲げている。顧客のDXを支援するビジネスを伸ばすことでこの目標を達成する戦略で、その中核となる新会社・リッジラインズを設立するとともに、「富士通自身がDX企業となるための社内改革」(時田社長)に取り組んでいる。
DX戦略説明会で人事施策を強調する
時田隆仁社長
時田社長は、これまでの富士通グループは「データやノウハウを社内で共有し活用することができず、データをお客様や社会のための価値に還元するという仕組みも十分ではなかった」と話し、弱点があったことを認める。社内の事業部門ではなく、あえて別会社をDXビジネスの牽引役としたのは、従来の富士通とは異なる制度や文化をもつ企業でなければ、この領域で他社に勝つことはできないという判断からだ。
4月には、現在PwCコンサルティングの副代表執行役を勤める今井俊哉氏が、リッジラインズの新社長に就任する。今井氏は、リッジラインズの役割を「コンサルティングとプロトタイピングをする会社」と説明。従来ITベンダーは、顧客の業務プロセスに合わせたシステム設計・開発を事業領域としていたが、それはDXのプロセスの一部分でしかなく、リッジラインズでは戦略策定や業務プロセス自体の設計、他社との提携や交渉の支援なども行うという。加えて、試作・検証を実施するための技術力も自社で備えていく。
リッジラインズからみて、富士通本体は「強力なパートナーの一社」(時田社長)という位置付け。リッジラインズ単体では、2~3年後までに売上高200億円を目標とするが、DXプロジェクトに伴うレガシーシステムの更改など、富士通本体にはより大きな案件が転がり込む。このような波及効果を含めて、グループ全体のDX関連ビジネスに最大2000億円の増収効果を与えることを目指す。ただし、今井氏は「リッジラインズは、あくまでお客様の成功のためにベストソリューションを提供する企業」と述べ、富士通との連携を前提にはせず、他のSIerとも協業する方針を強調する。
最初のプロジェクト事例は「半年後をめど」(今井氏)に公開するとしており、現時点ではどのようなビジネスを展開するのかは見えにくい。その中で、今井氏が具体策を語ったのが、高度人材の確保を目的とした人事施策だ。他のコンサルティング会社並みの報酬を用意するほか、直属の上司が直接の評価者とならない評価制度を採用する。今井氏は、評価の透明性を高めることで「自分たちの部下を踏み台にして偉くなる上司は存在しなくなる」と話し、優秀な若い人材が長期にわたって活躍するカルチャーの醸成に力を入れるという。4月時点の従業員数は約300人で、当初は9割が富士通と富士通総研からの出向で構成される。3年後には倍の600人体制を見込む。
富士通は経営幹部に外部人材を登用する方針を今年1月から明確化している。3月9日の説明会には、4月から常務CIO兼CDXO(最高DX責任者)補佐となるSAPジャパンの福田譲社長、同じく理事CMOとなる日本マイクロソフトの山本多絵子業務執行役員、3月にマッキンゼー・アンド・カンパニーから移籍したニコラス・フレイザ―理事も登壇した。
福田氏は「日本を代表するICT企業の富士通が、デジタル時代のビジネスモデルや事業運営のあり方を自ら世に示す」、山本氏は「世界の最先端のマーケティングソリューションを活用する」と述べ、自社をDXのショーケースとしていく考えを強調。フレイザ―理事は富士通でM&A戦略を担当し、DXビジネス加速のために買収も戦略的に実施していく方針を示した。
今井氏、福田氏、山本氏は現職の企業に在籍中であり、富士通の会見に臨むのは異例。時田社長は説明会で「(DX成功のために)一番大事なのは“人”自身が変わること」と繰り返し話し、外部の経験やノウハウの導入に本気で取り組んでいく姿勢を見せていた。
左からSAPジャパンの福田譲社長、日本マイクロソフトの山本多絵子業務執行役員、時田社長、
PwCコンサルティングの今井俊哉副代表執行役、ニコラス・フレイザ―理事