NECは5月12日、2019年度連結決算を発表した。純利益は前年度比152%増の999億6700万円となり、23年ぶりに過去最高を更新した。世界的に感染が拡大する新型コロナウイルスの影響については、20年度の売上高で「5%の減収」(新野隆社長兼CEO)を見込むものの、その後のIT投資の増加に期待感を示し、業績への影響は限定的との見方を示した。(齋藤秀平)
国内事業が堅調に推移
企業向けPC特需が追い風
「全ての指標で期初の計画を上回る実績となった」。12日にオンラインで開かれた決算説明会。配信は音声だけとなったが、新野社長は19年度の業績についてこう表現し、一定の安堵感をにじませた。
新野隆社長兼CEO(2019年10月の19年度上期決算発表会で撮影)
業績をけん引したのは、堅調に推移した国内事業だ。19年度は、大幅に伸長した前年度に引き続き、ほぼ全てのセグメントで受注が増加。売上高は6.2%増の3兆952億3400万円、営業利益は120.9%増の1276億900万円となり、2年ぶりに増収増益になった。
サーバー、ストレージ、業務端末などの各種ハードウェア、運用管理ツールやミドルウェアなどのソフトウェア製品を扱うシステムプラットフォーム事業はとりわけ好調だった。Windows 7のサポート終了に伴う企業向けPC特需を中心にハードウェアが伸び、売上高は9.7%増の5487億円に。調整後営業利益は288億円増の489億円となり、うち100億円を企業向けPC特需が占めた。
19年度の決算では、これまで進めてきた取り組みの効果も現れた。調整後営業利益では、構造改革効果として255億円を計上し、オペレーションの改善では350億円を盛り込んだ。新型コロナウイルスの影響でマイナス50億円などの押し下げ要因はあったものの、全体の調整後利益は108.5%増の1457億9800万円と大きく改善した。
純利益は10%減と予想
強みのビジネスを加速
20年度の業績予想では、売上高は、企業向けPC特需の反動やディスプレイ事業の非連結化によって19年度比2.1%減の3兆300億円を見込む。減収を想定するが、営業利益はグローバル事業の収益性改善や不採算案件の削減で17.5%増の1500億円とした。純利益は、10%減の900億円となる見通し。
業績予想には新型コロナウイルスに特化したリスクは盛り込まれておらず、説明会では業績への影響に関する質問が相次いだ。新野社長は「今後どの程度広がるかは分からないが」と前置きした上で、「20年度上期で感染拡大がある程度終息し、下期で立ち上がる前提だと、売上高で5%の減収になる」と述べた。
さらに森田隆之副社長兼CFOは「約400~500億円の利益損失の可能性がある」との見通しを示し、損失の半分は費用の節減などで対応し、残り半分は活性化しているテレワークなどの需要を取り込んでカバーしていくとした。
一方、2000億円程度の効果を見込んでいた東京五輪・パラリンピックについては「事前の準備は済んでいるので、延期による損益はそれほど大きくないと考えている」と語った。
マスク対応の顔認証を製品化
DX需要を成長の原動力に
同社は、新型コロナウイルスの感染拡大で、社会のあり方が変化し、デジタル化やリモート化、オンライン化、省人化、タッチレス化が進展するとみており、新野社長は「当社が培ってきた生体認証や人工知能(AI)、5Gの技術をフルに生かせる」と説明した。
テレワークソリューションでは、環境整備だけでなく、セキュリティ対策やAIチャットボットによる問い合わせ対応なども提供していると説明。また、マスクを外さずに本人確認ができる顔認証システムを20年度上期中に製品化する方針を示したほか、新型コロナウイルスのワクチン開発にAI予測技術を活用する取り組みを開始していることなどを紹介した。
国内では現在、幅広い業界に新型コロナウイルスの影響が及んでおり、IT投資の冷え込みが懸念されている。新野社長も「一時的に製造業や一部のサービス業でIT投資の冷え込みがあると思う」と認めたが、「IT投資はこれから増えていく。長い目でみれば、国内ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の動きが加速すると考えている」とし、DX需要を成長の原動力にする考えを示した。