NTTとNECは6月25日、第5世代移動通信システム(5G)などの研究開発に共同で取り組むと発表した。NTTがNECに約645億円を出資する。NECの新野隆社長兼CEOは、今回の資本業務提携を「基地局の世界市場に出る最後のチャンスになるかもしれない」と位置づけており、背水の陣で臨む考えだ。(齋藤秀平)
両社でオープン化をけん引
日本発の技術や製品を創出
「日本発の付加価値の高い技術を強化し、オープンな連携を基にグローバルに展開していく」。NTTの澤田純社長は、NECとの提携の目的をこう説明した。
資本提携を発表し、握手するNTTの澤田 純社長(右)とNECの新野 隆社長兼CEO
通信業界では、通信キャリアが特定メーカーの通信機器一式を採用する垂直統合モデルが主流になっており、「イノベーションが進みにくい構造になっている」と澤田社長は指摘する。ただ、近年は徐々にオープンアーキテクチャーが広がりつつある。こうした業界の動向を踏まえ、垂直統合モデルにつながる独自仕様の技術開発ではなく、NTTとNECが中心となって基地局市場のオープン化をけん引したい意向だ。
澤田社長は「4Gも5Gも、出だしは垂直統合のビジネスになっている」と指摘し、「これから5Gは非常に大きな市場になり、(オープン化の推進を目指す)われわれが入っていける」と自信を見せた。新野社長も「多様なパートナーとともに、新たなビジネスモデルをつくっていきたい」と意気込みを語った。
研究開発の方向性について澤田社長は、5Gのほか、光技術を活用した新しいネットワーク・情報処理基盤の実現を目指すNTTの「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network、アイオン)構想」にも重きを置いているとし、「有線、無線に関係なく、新しい通信インフラを構成するのがアイオン構想なので、6Gも包含しているとみてほしい」と説明した。
5G基地局の市場で先行する中国の華為技術(ファーウェイ)は、毎年莫大な研究開発費を投じることで知られており、2019年の研究開発費は約2兆円に上った。NTTの出資額は、それと比べるとかなり低い金額だが、澤田社長は「金額ではなく、われわれが狙っていることにフォーカスしてもらえれば、競争力はあると思ってもらえるはずだ」と述べた。
NTTとNECについて澤田社長は「(両社の関係には)長い歴史がある」とし、「新野社長とは数年来、いろいろな協業の可能性を議論してきた」と話した。今回の提携は、2年ほど前にNTTがNECに提案し、提携の実現に至ったという。
澤田社長は、海底ケーブルや光通信関係のNECの高い技術力に加え、「5Gでは、非常に大きなスケールメリットを持っている垂直統合型の企業が市場にいる。そこにチャレンジする気持ちを持っているNECと組むのがいいのではないかと判断した」とした。
その上で「キャリアとメーカーが組む世界にない新しいモデルだ。両社で日本発の革新的な技術や製品を創出し、グローバルでリーダーを取るところまで頑張っていきたい」と話した。
オープン化の流れは広がるか
O-RANをキーワードに設定
国内の通信キャリアを主要顧客としてきたNECにとって、かつて国内外で通信規格が大きく異なっていた携帯電話基地局のビジネスは、長らく海外進出が難しい領域だった。新野社長は、NTTとともに基地局の世界市場に挑戦するにあたり、NTTドコモなどが加盟するO-RANアライアンスの仕様への準拠が「大きなキーワードになる」とみる。
基地局市場は、ファーウェイ、エリクソン、ノキアの大手3社により世界的な寡占状態となっており、通信キャリア側にとっては、コストの高止まりやベンダーの選択肢の少なさが問題となっている。この状況を打破するため、ドコモをはじめとする世界の通信キャリアが18年2月に設立したのがO-RANアライアンスで、5G基地局のオープン化を推進することにより、基地局市場におけるベンダー間競争を加速することを目指している。
O-RANのアーキテクチャーで機器間の接続仕様がオープン化されれば、基地局を構成する機器を同一ベンダーの製品で揃える必要がなくなるため、NECがこの市場に入り込む契機となる。まずは同社が強みを発揮できる無線装置で採用実績を重ね、次の段階として制御装置などの納入も増やし、30年までにO-RAN準拠基地局の世界市場(中国を除く)で20%のシェアを狙う計画。新野社長は、5Gと6G以降の無線アクセス網市場で「トップシェアを狙うくらいまで事業を広げていきたい」と目標を掲げた。
5Gをめぐっては、米国が、経済安全保障上の観点から、ファーウェイに対する締めつけを続けている。こうした影響について、澤田社長は「われわれはオープン化を推進したいと思っている。当然、信頼のおける国やプレーヤーと組んで、新しいシステムをつくりたい。そういう意味で、結果的に経済安全保障の流れには合致していくだろうと考えている」との認識を示した。
日本政府との関係については「アイオンに至るまで、NECとはいろいろなシステムの共同開発を考えており、5Gはその手前になる。国は5Gの展開を後押ししている。直接、間接は別にして、国はわれわれのことを見てくれている」とし、新野社長は「今回の提携はわれわれ2社で決めたが、グローバルに推進することについては非常に大きな支援をいただいている」と話した。