コロナ禍の混乱が尾を引く中、感染拡大を防止するための対人距離の確保など“新しい生活様式”への対応が求められている。営業活動や教育、医療に至るまで、非対面、オンラインへのシフトを余儀なくされ、情報サービスに対する需要も大きく変容している。主要SIerの業界団体である情報サービス産業協会(JISA)は、コロナ禍の業界への影響をどう捉え、市場に向き合うのか――。原孝会長に話を聞いた。
コロナ対応の
“JISAモデル”をまとめる
コロナ・ショック後のJISAの対応についてお話いただけますか。
原 感染拡大の第一波については、何とか押さえ込めている状態だと思います。第二波、第三波に備えて、5月14日付でまずは「情報サービス業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」を発表しました。この中で、手洗いやマスク着用、テレワークの推奨といった基本的な指針に加え、客先常駐や複数社のスタッフで構成するプロジェクトを念頭に、顧客企業や協力会社とよく話し合い、歩調を合わせて感染拡大防止の対策を講ずるよう要請しています。
原孝 会長
情報セキュリティの観点などから客先常駐をなくすのはハードルが高そうです。
原 客先常駐を続けるとしても、常駐先の感染防止対策と自社の感染防止策との整合性を図っていくことは大切なことです。職場でのクラスターが発生するなど感染者が増える状況を想定し、優先して維持すべきシステムや機能は何なのか、あらかじめ顧客や協力会社と意思統一をしておくことが今後の第二波、第三波に備えた事業継続にも役立つはずです。
2011年の東日本大震災のときは、データセンターの非常用発電機の燃料を優先的に供給してもらうよう、国に対してJISAが積極的に働きかけました。今回はどうでしょうか。
原 情報サービス業界が担う情報システムは、社会経済の基盤としてあらゆる産業、国民生活の重要なインフラとなっていることは言うまでもありません。国に要望することがあれば、この上期中をめどに「政策提言」としてまとめたいと考えています。
また、JISA会員企業や顧客に向けて、在宅勤務や分散ワークをする際の情報セキュリティはどうすべきなのか、客先常駐の仕事をリモートでするにはどうしたらよいのか、他社はどのようにしているのかといった事例を“JISAモデル”として公表し、全国のSIerの参考にしてもらうことも検討しています。
伸びる領域に的確な提案を
情報サービス業界の業績も気になるところですが、どう見ておられますか。
原 旅行や飲食が大きな打撃を受け、一部の経営者のマインドも冷え込んでしまっている状況ですので影響はないわけがない。今年度第1四半期(4-6月期)を振り返ると、緊急避難的に在宅勤務に移行し、慣れないオンラインツールで非対面の営業をしたわけですので、新規顧客の開拓が思うように進まなかったという声が聞こえてきます。そうなると玉突きで第2四半期(7-9月期)に第1四半期の影響が出てきてしまう可能性があると、強い危機感を持っています。
とはいえ、既存のビジネス領域は伸び悩んだとしても、例えばリモートワークや非対面営業の仕組み、会社に来ないとできない紙ベースの業務をデジタル化するといった分野は伸びるでしょう。総じて見ればマイナスの影響が大きいかもしれませんが、より重要なのはわれわれ情報サービス業界が伸びる領域に対して十分な提案ができているのかという点です。
課題山積、やるべきことは多い
社会インフラを支える存在でありながら、社会課題に対する取り組みが十分ではないということでしょうか。
原 コロナ禍という未曾有の大災害を乗り越えるために課題は山積しています。リモートワークにおける非対面の営業ツール、教育機関のオンライン授業、医療機関のオンライン診療、地方に住む年配者が安心して生活必需品をオンラインで買える仕組み、職場での対人距離を保つ方策、やたらと時間がかかると指摘されている各種の給付金を迅速に支給できるようにするシステムなど、実現しなければならないものは多い。これは自戒も込めてなのですが、SIerの多くは基幹業務をはじめとする業務アプリケーションの領域に偏るきらいがあり、ややもすれば社会課題に対して鈍感になっているのでないかとの問題意識を持っています。
感染拡大を防ぐためのデジタル化に当たり、実際には多くのSIerが推進力となっている事実があるにもかかわらず、あまり目立たない印象は確かにあります。
原 少しでも世の中にアピールできるよう、今年の「JISAアワード」では、網屋の仮想セキュアネットワーク空間プラットフォーム「amigram」を表彰しました。高いセキュリティ水準を保ったリモートワーク環境を短期間で構築できる優れものです。
JISAアワードは、毎年、この時期に独創的で国際的にも通用する優れたシステム商材を開発したJISA会員を表彰していますが、選考委員会の皆さんには、ニューノーマルと呼ばれるコロナ後の新しい生活様式や働き方を踏まえ、例年とは違う観点で選考していただきました。
ニューノーマルの時代には、IT投資の優先順位や情報サービス業界に求められるものも変わってきます。そうした変化に積極的に適応していくことで、この難局を乗り越えていきたい。