グーグル・クラウド・ジャパンでパートナー事業本部長を努める高橋正登・執行役員が週刊BCNの取材に応じ、パートナーを通じたエンタープライズ顧客の獲得に向けた戦略を説明した。高橋執行役員はデータ活用やアプリケーションのモダナイズにおける同社サービスの優位性を強調し、単なる「リフト&シフト」ではなく、デジタルトランスフォーメーション(DX)のためにクラウドを活用しようとするパートナーの支援を強化する方針を示した。(日高 彰)
2020年はパートナー数が
「かなりの勢い」で増加
グーグル・クラウドは2019年7月、それまで買収などで商材ごとに独立していたパートナープログラムを統合し、「セル」「サービス」「ビルド」の三つの商流モデルから成るプログラムに刷新した。セルは再販パートナー、サービスはSIerやコンサルティング会社、ビルドはグーグル・クラウドの機能を自社の製品やサービスに組み込むテクノロジーパートナーを想定している。
パートナーのレベルは3段階で、プログラムへの登録を行ったばかりの「メンバーレベル」、一定の認定資格を取得するとともに年間の事業計画を策定・実行することが要件の「パートナーレベル」、さらに多くの認定資格を取得し、一定数の成功事例を作ることが要件となる最上位の「プレミアレベル」が用意されている。国内の具体的なパートナー数は非公開だが、高橋執行役員によると、「昨年は一昨年に比べかなりの勢いでパートナーを増やすことができた」という。また、プレミアレベルの国内パートナーは現在13社。
パートナーが大きく増加した理由を高橋執行役員は「当社がエンタープライズ向けの体制を大幅強化するとともに、パートナー支援でも担当人員の増強やプログラムの刷新で体制整備を本格化したことの認知が進んだため」と説明。かつてはWebサービスやコンテンツプロバイダー向けのサービスというイメージが強かったグーグル・クラウドだが、近年はエンタープライズ顧客の取り込みに力を入れており、その動きが本格的に認知されるようになったのが昨年のタイミングだったと分析する。特に、電機メーカー各社をはじめSIを手掛ける国内大手ベンダーとのパートナー契約が一通り完了し、パートナーの数だけでなく、エンタープライズ顧客との接点の強化という意味でも大きな前進があったと総括している。
高橋正登 執行役員
また、新型コロナウイルスの影響で、Google Workspace(旧称G Suite)の需要が高まったことも、パートナーの増加を後押しした。昨年11月には、それまでChromebookを販売していたダイワボウ情報システムとシネックスジャパンがWorkspaceの取り扱いを開始。コロナ禍での働き方改革にグーグルのクラウドサービスが有用であるとの見られ方が広がったことで、Workspaceを販売したいというパートナーの数も大きく伸びた。
データ活用とモダナイズが
クラウドシフトを促進する
エンタープライズ顧客向けには「データ活用基盤の構築や、その周辺で発生するアプリケーションのモダナイゼーション」(高橋執行役員)といった、クラウドのメリットを生かしやすい案件でグーグル・クラウドの導入を図っていきたい考え。
エンタープライズシステムのクラウド化というと、オンプレミスで動作するアプリケーションの実行環境のみをクラウドへと入れ替える「リフト&シフト」が考えられるが、高橋執行役員は「データ活用の基盤がない段階で、ERPなどのSoRだけをクラウドへ移行しても付加価値は創出しにくい」と指摘。まず、データウェアハウスやデータレイクなどデータ活用の仕組みを構築するとともに、新規アプリケーションを迅速に投入できるコンテナ基盤を整備し、顧客がクラウドのメリットを実感した後に、オンプレミス資産をクラウドへ移行するといった順番のほうが成功しやすいとしている。
この点で、グーグル・クラウドにはデータ分析プラットフォームの「BigQuery」や、API管理サービスの「Apigee」、分散データベースの「Cloud Spanner」など、データ活用を支援するための仕組みがそろっている。また、他社クラウドやオンプレミス環境も対象にしたコンテナ環境の統合管理サービス「Anthos」や、ミッションクリティカルなワークロードにも対応できるインフラ自体の品質の高さも評価されており、DXに必要な要素が使いやすい形でそろっていることが他のクラウドに対するグーグル・クラウドの強みになっているという。
クラウドを活用したシステムインテグレーションでは、パブリッククラウドの取り扱いに特化した新興ベンダーの動きが先行したが、その後エンタープライズ顧客を相手とするSIerの間でもクラウドのノウハウ蓄積が進んだ。高橋執行役員は「ここ2年ほどで、何が何でもまずはリフト&シフトというのは違うのでは、という機運が出てきている」と話す。オンプレミスの代替品としてクラウドを推すのではなく、クラウドだからこそ解決できる顧客のビジネス課題にフォーカスすべき、という流れがSI業界全体で起きていると強調。「DXを加速するクラウド」として同社のサービスが選ばれるよう、パートナー向けの技術支援や情報提供を一層強化していく方針を示した。