富士通が現経営体制下で、昨年から加速させている一連のグループフォーメーション再編が佳境を迎えている。特に国内ビジネスの強化策については、今年1月に発表したSI系子会社のさらなる再編により一応の完成形が見えてきた。富士通グループとしてのデリバリー機能とフロント機能を一貫した体制に再編すべくグループ内のリソース集約を進めてきたが、その全貌がいよいよ鮮明になった。(本多和幸)
デリバリー機能をJGGに集約し
7000人体制で本格稼働
古田英範 副社長CTO
サービスデリバリーの変革については、昨年11月に新設した「ジャパン・グローバルゲートウェイ(JGG)」が核となる。JGGは日本市場向けのニアショアセンターという位置づけだ。日本固有のニーズをオフショア開発に適した形に整理、標準化した上で、世界8カ国に展開しているオフショアサービス拠点「グローバルデリバリーセンター(GDC)」と連携する。古田英範・副社長CTOは、「富士通はこれまでもGDCの活用を推進しようとしてきたが、当初の期待ほどは進んでいない。背景には日本固有のIT業界の構造の問題もあったし、富士通グループ自身、国内では属人化したプロジェクト体制によりスキルや知見が分散しており、適切な配置ができていなかった」と課題を説明する。
これらの構造的な課題を解決するためにJGGを立ち上げ、グループ内に分散しているデリバリー機能を集約する。役割の整理と作業の標準化による生産性の向上、GDCとのスムーズな連携を図るほか、重複投資の排除などによりSIビジネスの利益率も引き上げる狙いがある。
デリバリー機能の集約に先立って1月に発表されたのが、4月1日付でSI系グループ会社15社を統合・再編するという施策だ。各社の事業領域を踏まえて、11社が富士通本体に、4社が富士通Japanに統合される。統合後、半年の期間をかけて、各社のデリバリー機能をJGGに順次集約する。今年10月以降に7000人体制でJGGを本格稼働させる計画だ。
フロント機能の強化については、富士通Japanの本格始動が主要施策と言える。同社は昨年10月、富士通マーケティング(FJM)と富士通エフ・アイ・ピー(FIP)を統合し、富士通本体から準大手、中堅・中小企業を担当するシステムエンジニア約400人が合流する形で発足。中央官庁やメガバンク、通信キャリア、グローバル企業、社会インフラ関連企業を除く富士通グループの国内顧客を一手に引き受ける体制がスタートした。
既に発表されているとおり、今年4月には準大手から中堅・中小企業までの民需、自治体、医療・教育機関向けのビジネス部門全体が富士通Japanに合流するとともに、富士通エフサスと富士通ネットワークソリューションズ(FNETS)の営業機能も同社に統合する。今回、ここにさらに4社が加わることが新たに明らかになり、富士通Japanとしての完成形がひとまず示された形だ。
パートナーとの協業も
ソリューション型に“進化”させる
4月以降の富士通Japanの組織構造については、顧客のDX推進や地域課題の解決に向けて、産業分野を横断した「クロスインダストリー型」の提案を強化することを意識したものに再編する計画だ。富士通グループは昨年から、従来の営業人員を「ビジネスプロデューサー」と再定義し、DX支援やクロスインダストリー型の提案ができるようになるための新たなスキルセットの習得を促している。グループ内の約8000人の営業パーソン全員に教育を施しており、3000人が既に第一次の教育を終えている。富士通Japanで顧客接点を担う「フロントグループ」は、このビジネスプロデューサーとアカウント担当のSEが一体で活動する組織になるという。また、フロントグループは業種軸で組織を分割するのではなく、地域軸で六つのエリア本部を設置し、「地域特性に合わせたスピーディーな判断やビジネス展開が可能な体制にする」(古田副社長CTO)としている。
また、富士通Japanも独自に「デリバリーグループ」を置き、各社のリソースを集約する。フロントグループと同様に、クロスインダストリー型ソリューションやDX支援提案のデリバリー対応力を高めることに主眼を置いており、専門組織も設置する。さらに、「ソリューション開発グループ」も設け、統合した各社の資産やノウハウを生かしたパッケージアプリケーション、SaaS製品の開発も、統一された方針のもとで進める。FJMが手掛けてきたERP製品「GLOVIA」も、「付加価値のある商品にすべくゼロベースで(開発の方向性を)考えている」(古田副社長CTO)状況だ。
チャネルパートナーとの関係再構築も富士通Japanの重要な役割だ。古田副社長CTOは「富士通Japanは直販、パートナー経由の両軸でビジネス拡大を図る。従来はプロダクトの再販パートナーとの協業が中心だったが、今後はソリューション提供型の協業に転換し、(パートナーシップの)質の変化の方向性に沿った形でパートナーとの関係を進化させたい」と話す。具体的には、パートナーのソリューションを富士通のクラウド上で展開したり、富士通とパートナーが新しいSaaSモデルをつくっていくなど、さまざまなパターンを想定しているという。
富士通本体は2022年度にテクノロジーソリューション事業の営業利益率10%を目指すという目標を掲げているが、古田副社長CTOは「富士通Japan単体でも、同様に22年度の営業利益率は10%を目標としている」と説明。その体制固めがようやく終わりつつある。一方で、新たなフォーメーションが意図した成果を出すまでにどの程度の時間がかかるのかは不透明。新型コロナ禍を経て市場環境が目まぐるしく変化する中で、スピード感も大きな課題になりそうだ。