国産ERPベンダーのワークスアプリケーションズは昨年、同社ERP「HUE Classic」クラウドマネージドサービス「HUE Classic Cloud」のクラウド基盤に「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」を追加した。従来ラインアップしていたAWSに加えて選択肢を広げた形で、基幹系システムのインフラとしてのOCIのポテンシャルを高く評価する。日本オラクルにとってもISVパートナーの拡大はクラウド事業の成長に向けた重点課題だ。互いに協業は戦略的に大きな意味を持つという日本オラクルの三澤智光社長、ワークスアプリケーションズの秦修代表取締役COOにインタビューした。
第2世代のOCIを総合的に評価
――HUE Classic CloudのインフラにOCIを採用するにあたって、どこを特に評価したのか。
秦 次世代クラウドインフラとオラクル自身が銘打っているとおり、最先端の技術の恩恵を享受でき、コスト、セキュリティ、機能の三つの点で優れたサービスであることが決め手になった。当社はオンプレミスとクラウド、どちらかに限定しないマルチプラットフォーム戦略を打ち出しているが、クラウドマネージドサービスの引き合いは増えている。OCIを活用したサービスのユーザーは中長期で着実に拡大していくと期待している。
ワークスアプリケーションズ 秦 修 代表取締役COO
三澤 第1世代のクラウドは、大量のデータをリアルタイムに処理するというエンタープライズのワークロードのニーズに応えきれていなかった。そこでオラクルはOCIをGen2(第2世代)という新しいアーキテクチャーで完全につくり直した。正確かつ大容量のデータ処理を可能にする超高速ネットワークを整備するとともに、最下層のネットワークレイヤーでそれぞれの顧客を区切り、テナントの完全な独立・分離も実現した。データも強制的に暗号化される。セキュリティ事故を起こさせないための各種の自動化機能も備えている。ERPには最適なクラウドだと考えている。
日本オラクル 三澤智光 社長
――OCIのメリットの詳細は。
秦 コスト面で言えば、例えばアウトバウンド転送量が10TB/月まで無償というのは大きな魅力だった。
三澤 確かに、クラウド上にデータを上げるのは無料でも、オンプレミス環境で分析したいと考えてクラウドからデータを取り出そうとすると、とてつもない額を課金されることがある。これは既存の汎用クラウドの“罠”とも言える。Oracle Cloudはデータドリブン経営に役立つサービスを志向して料金体系も構築している。
秦 HUE Classicは古くから「Oracle Database」をアーキテクチャーに取り込んでいる。そうした観点からも、OCIを利用することには合理性があった。他社クラウドと比較して、同程度のコストでもできることは多くなり、機能拡充に向けた制約は少なくなる。コストパフォーマンスにも優れた競争力のあるサービスを提供できると期待している。
Oracle DBユーザーを
“正しく進化”させる
――オラクルとしてはHUE Classic CloudへのOCIの採用をどう見ているのか。
三澤 秦さんもおっしゃったように、ワークスアプリケーションズは本当に古くからOracle DBをエンジンに使っていただいている。そうしたISVの“正しい進化”をお手伝いしていくことはオラクルの義務だと考えている。全く違うDBを使って新しいアプリケーションをつくるのはコストも時間もかかるし不安定さにもつながる。バージョン間の継続性も担保できなくなってしまう。
秦 当社にとっては長く付き合ってきたことによる安心感もある。人的なサポート、技術的なサポートを含めて信頼度が高い。
――オラクルも自社のクラウドERPを積極的に拡販しており、両社には競合としての側面もある。
秦 これまでもDBでは協業してきたので気にしていない。一部で競合関係があるにしても、それを上回るメリットがあると判断してOCIを採用した。
三澤 選択肢があることが重要。オラクルがSaaSも含めてフルスタックのクラウドサービスを展開することで蓄積したノウハウやアセットはOCIユーザーにも当然還元されていく。例えば日本のミッションクリティカルシステムはほとんどデータが暗号化されていない。他社ERPも含めて、OCIを基盤として活用することでそういうことができるようになるだけでも日本のアプリケーションを正しく進化させることにつながる。
――今後の展望を。
秦 国産ERPベンダーとして、しっかり日本企業のビジネスを支えていく。お客様のインシデントの4割はインフラに起因しており、ここを安定させるのが重要。オラクルのようなグローバルベンダーと力を合わせて新しい技術、アーキテクチャーをどんどん取り入れながら環境を整え、当社はよりアプリケーションの機能向上に注力する体制にしたい。お客様を含めてWin-Win-Winの体制が組めると思っている。
三澤 ISVの皆さんがクラウド基盤に求める要件は安心・安定、そして安全(セキュリティ)をどう担保するか。これらはOCIを使っていただければすぐにでも応えられるが、次の展開こそが重要。OCIにはクラウドネイティブな技術が山のように組み込まれているので、AI化や自動化、高度な分析処理といった機能を使って、ワークスアプリケーションズ製品の進化に貢献できる提案をしていきたい。