2020年以降の法人向けIT市場で急激にプレゼンスを高めたITベンダーの1社が「Zoom」ブランドでWeb会議ツールなどを提供する米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZVC)だ。中でも日本市場での成長は目覚ましく、日本法人であるZVC Japanはグローバルで最も急成長した現地法人となった。成長の勢いは今年に入っても鈍っておらず、製品ポートフォリオの拡大やそれに対応したパートナーエコシステムの拡充を進め、さらなる成長のための布石を打つ意向。最終的にはZoomを日本の「社会インフラ」として定着させるという目標を掲げる。(本多和幸)
米ZVCの21会計年度(21年1月期)売上高は26億5100万ドルで、前年度比4倍を超える成長を記録した。日本法人はそれを大きく上回る勢いで成長し、佐賀文宣・カントリーゼネラルマネージャーは「売り上げは1年で約10倍になり100億円を超えた」と説明する。現在は英国法人に次ぐ3番目の規模。ユーザー数も順調に増え、「10ライセンス以上の利用が前提となる『ビジネスライセンス』以上のプランを利用する企業が1月末時点で2万5000社を超え、現在は約3万社まできている」状況だ。
今年度のスタートにあたって、日本法人として向こう3年で売上高を21年度比2倍の200億円以上にするという目標を掲げているが、目下想定以上に急成長を続けている。「今期第1四半期の業績をみると1年半ほどで200億円は達成してしまいそう。目標を上方修正しなければならないと考えている」と佐賀カントリーゼネラルマネージャーは手応えを語る。
佐賀文宣 カントリーゼネラル マネージャー
ZVC Japanの好調を支える大きな要因として、販路の構築が順調に進んだことが挙げられる。当初はNTTデータや野村総合研究所、日商エレクトロニクスなど大手SIerを中心に7社と一次代理店契約を結び、大手顧客の開拓に注力。その次の段階として昨年3月にはSB C&Sとディストリビューター契約を結んだ。佐賀カントリーゼネラルマネージャーは「SB C&Sというディストリビューター経由で市場を面的にカバーするという戦略。その中で全国のSMB向け市場をカバーする大塚商会やリコージャパンなどともしっかりエンゲージメントできた」と成果を強調する。現在、SB C&S経由でZoomを販売するリセールパートナーは400社を超えており、ZVC Japanの売り上げのうち約70%がパートナー販売による売り上げだ。
目指すは「社会インフラ」としてのポジション
目下の市場環境は良好であるものの、さらなる成長に向け複合的に手を打っていく姿勢も見せる。まず、日本市場での「信頼再構築」を意図して金融機関や公共分野の新規顧客開拓を積極的に進める。
Zoomをめぐっては昨年3月ごろからセキュリティやプライバシーに関わる課題が顕在化し、同4月から90日間、全ての開発リソースをセキュリティに投入するという経緯があった。佐賀カントリーゼネラルマネージャーは「体制整備やセキュリティ機能の強化は非常に早く、うまく対応ができた」とする一方で、「お客様の信頼という観点では、不備を全て直しましたので明日から受け入れてください、というわけにはいかない。今年1年間は辛抱強く信頼を取り戻す1年と位置付けている」と話す。
20年にはFISC対応を完了し、現在は政府情報システムのためのセキュリティ評価制度である「ISMAP」への登録に向けた準備も進めている。大手銀行や中央官庁、地方自治体での利用実績を増やすことで、市場における信頼度を高めたい考えだ。地方自治体での利用拡大に向けては、SB C&Sと協力して「ローカルキング」と呼ばれる各地方の有力SIerとの協業関係構築を積極的に進める。
また、ZVC Japanが地方自治体と包括契約を結び、行政サービスの中に幅広くZoomを取り入れる事例づくりにも注力しているという。Zoomをオフィスワーカーのためだけのツールではなく、さまざまな業務の現場で活用できるツールとして訴求し、ゆくゆくは社会インフラと呼べるほど幅広く浸透させたいとしている。佐賀カントリーゼネラルマネージャーは「Zoomを使ったサービスを享受する側はメールアドレスも必要ないし、通信回線が高品質でなくても映像がお届けできる。多様なシーンで活用していただけるZoomならではの価値がある」と強調する。
Web会議ツールである「Zoom Meetings」以外の機能・商材の販売体制も強化する。会議室用のビデオ会議ソリューションである「Zoom Rooms」は昨年度、リモートワーク拡大の影響を受け売り上げが下がった。現在は「オフィスへの回帰と在宅勤務の継続が並行し、会議室での会議と在宅勤務者の共存が求められている状況だ」(佐賀カントリーゼネラルマネージャー)として、Zoom Roomsの商機が拡大していると見る。会議室からの参加者とリモートでの参加者のコミュニケーションが分断されないUI/UXの実現に取り組むなど「ウィズコロナの環境下におけるハイブリッドワークに必要な機能をこの1年でつくりあげてきた」成果を市場に問う。
グローバルではすでに提供しているクラウドPBXサービス「Zoom Phone」の日本市場における本格展開も間近だ。Zoom RoomsやZoom Phoneの拡販施策でもSB C&Sと協業し、音響アセスメントやオフィスデザイン、通信サービスの販売など既存のITリセラーとは違う領域で強みを持つパートナーの開拓を進める。