Chatworkとスターティアレイズは7月1日、クラウドストレージ事業の運営を目的に、合弁会社「Chatworkストレージテクノロジーズ」を設立した。スターティアレイズがクラウドストレージ「セキュアSAMBA(セキュアサンバ)」の事業を分割し、Chatworkが51%、スターティアレイズが49%を出資する構図で、合弁会社はChatworkの連結子会社となる。クラウドストレージ市場では外資ベンダーの存在感が大きく、機能強化を進めながらさらなる顧客拡大を目指している。Chatworkストレージテクノロジーズは機能を絞ったシンプル路線で対抗し、得意とする中小企業を中心にデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を支援したい考えだ。(齋藤秀平)
一時は撤退も検討 合致した両社の思惑
「数年前から相手先を探していた」。スターティアレイズの古川征且社長は、2007年12月に開始したセキュアSAMBAの事業について、こう明かした。
セキュアSAMBAは、従業員300人以下の法人顧客が全体の78.3%を占めており、特に従業員100人未満の市場で大きな存在感を発揮している。
しかし「スターティアグループ全体として、より収益性の高い事業や売り上げにつながる事業に注力するという方針があり、なかなかクラウドストレージ事業に注力しようという決断にはならなかった」と古川社長。「セキュアSAMBAがSaaSビジネスとして理解され、一定の関心を集めていたが、われわれ単体で伸ばしていくのは厳しく、撤退するか、どこかと組むかという二つの選択肢を考えたこともあった」と語る。
Chatworkストレージテクノロジーズの福田升二社長(左)と
スターティアレイズの古川征且社長
こうした状況の中、Chatworkとスターティアグループの両代表が昨年末から協業について模索を開始。マーケティングと開発体制の面で課題を感じていたスターティア側と、自社製品との親和性の高さや共通する顧客層に魅力を感じたChatwork側の思惑が合致し、「とんとん拍子」(古川社長)で合弁会社の設立が決まった。
合弁会社は「重要な一歩」グループの拡大にも寄与
Chatworkは、25年以降に自社製品をあらゆるビジネスの起点になるプラットフォーム的なアプリとして展開していく「スーパーアプリ構想」を掲げており、実現に向けて各領域で他社との提携を検討している。
クラウドストレージについては複数の企業を提携対象として検討していたが、Chatworkの執行役員CSO兼ビジネス本部長を兼務するChatworkストレージテクノロジーズの福田升二社長は「収益を取り込みながら、一緒にビジネスを大きくしていける企業はそもそも多くない」として、スターティアグループとのタッグは半ば必然だったことを示唆する。その上で、今回の合弁会社の設立は「スーパーアプリ構想の最初の一歩で、今後の試金石となる非常に重要な試みだ」と位置づける。
Chatworkは既に他社のクラウドストレージと製品間で連携している。福田社長も「既存の連携でも顧客のニーズはある程度満たせる」と話すが、今回の試みについて「われわれとしてはグループの規模を大きくしていくことを一つの目的としている」とし、さらに「中小企業のユーザーはAPIで連携するとなると使いこなせないことも多いと予想されるため、より密な連携が必要だと判断した」と説明する。
既存ユーザーの利用促進が最優先 中小向け市場でシェア1位を目指す
合弁会社は福田社長をトップに約10人体制でスタートを切った。短期的には、Chatworkがマーケティングと開発を受け持ち、スターティアレイズがセールスを担う。当面はChatworkが抱える32万社の既存ユーザーに直接利用を促すことを最優先にビジネスを展開する方針。
米調査会社ケネス・リサーチが今年1月に発表した調査レポート「クラウドストレージ市場:世界的な需要の分析及び機会展望2027年」では、世界のクラウドストレージ市場が18年から28年にかけて29%の年平均成長率で伸びていくと予想している。
国内でも、コロナ禍を背景に大企業を中心にクラウドストレージの利用が広がっているとみられるが、福田社長は中小企業向けの市場では「まだホワイトスペースがたくさんある」と分析する。
その上で「感度の高いユーザーが使い勝手をより求めた結果、製品が多機能になるというループを繰り返すと、中小企業にとってはかなり難解になる。われわれとしては、しっかりと中小企業に使ってもらうことを狙いとしているため、高機能である必要はなく、シンプルにし続けることが重要だと考えている」と持論を展開する。
各ベンダーは、複数人による共同作業ができることなどを武器に製品の魅力を訴求している。一方、セキュアSAMBAは、一つのファイルに同時にアクセスした場合、共同作業ができない排他制御機能を搭載。これまでのファイルサーバーと同じような使い方ができることを強みとしており、従来の業務を変える必要がない点で他の製品と差異化できるという。
今後の展開について福田社長は、ChatworkのビジネスチャットとセキュアSAMBAの連携性や操作性を高め、他のSaaSとつなげていくことも想定。これまで両社が培った知見を生かし、日本のビジネス構造に特化した使い方の支援についても計画するという。将来的に、中小企業の「働く」を支えるインフラを目指す考えで、まずは「中小企業向けのクラウドストレージの市場で、契約数と導入数でともに1位になることを今後数年で実現していきたい」と意気込む。