ラクスルは9月1日、新事業としてITデバイス&SaaSの統合管理クラウドサービス「ジョーシス」を正式にリリースした。新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、急速に広まったリモートワークなどで業務負担が急増している情報システム部門を支援するサービスだ。近年、SaaS管理サービス市場には新規参入が相次いでおり、にわかに競争が激化しているが、ジョーシスはSaaS管理だけにとどまらず、複数のサービスを通じてコーポレートITの支援業務を幅広く自動化できる点で差異化を図る方針だ。
(齋藤秀平)
印刷や物流、広告を主力事業とするラクスルにとって、法人向けのIT商材であるジョーシスの開発・販売は4番目の新規事業にあたる。新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年3月から全社でリモートワークを開始したことが開発のきっかけになった。
同日の発表会で松本恭攝社長CEOは、経営維持を目的にコストカットに取り組む中、PCのセットアップや故障対応などコーポレートITの業務委託費がなかなか減らないことに着想を得たとし、「コーポレートITの業務は非常にアナログで、効率化や自動化が進んでいないことが問題だ」と指摘した。
松本恭攝 社長CEO
ジョーシスは、従業員・ITデバイス台帳の管理に加え、デバイス購入やキッティング、入退社に伴うSaaSアカウント管理、日々のヘルプデスク対応を自動化する機能を提供。ITデバイスやSaaSの管理不全によるセキュリティインシデントを未然に防止し、情報システム部門が本来注力すべき「IT戦略の全体デザイン」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進」に専念できる環境が実現できるという。
同社は、既存事業の顧客基盤をジョーシスの導入拡大に生かす方針。例えば主力の印刷事業では、総務・販促部門が主な発注元で、情報システム関連の管理も総務部門が担っている場合が多い。ITデバイスやSaaSなど、さまざまなIT製品の発注から廃棄、アカウント削除まで、ライフサイクル全般をジョーシスで統合的に管理することで、業務負荷を約2割減らせると見る。
ジョーシスの開発は、日本とインドの2拠点で進めてきた。インド拠点長によると、日本のテックスタートアップ企業でインドに開発拠点を設置したのは同社が初で、ジョーシスの開発チームは半年前に結成したという。
国内でSaaSの利用が急速に拡大していることに伴い、SaaS管理には他のベンダーも参入している。ただ、ラクスルとしては「コーポレートIT部門の業務の中でSaaS管理は全体の5%程度にとどまっており、そこにアプローチするだけでは当該部門の業務軽減にはつながらない」(広報)とし、SaaS管理に加え、デバイス購買やキッティングといった複数のサービスを組み合わせてコーポレートITの支援業務を自動化できることが、最大の強みだと説明する。
松本社長CEOは「今年中に50契約の獲得を目標」とし、「国内の全ての会社がジョーシスを使っている状況を作り出すことができれば、3000億円から5000億円くらいの売り上げを目指すことができる」と語った。
国内の法人IT市場では、製品やサービスの導入を広げていく上でパートナーの存在が重要になる。同社は、ジョーシスの展開について「販路については現在検討を重ねており、(パートナーとの)協業や連携に関しては現時点で回答が難しい」としている。