最近はCRMや会計ソフトに至るまで業種を問わずクラウド製品が多くなってきている。
総務省によるコロナ禍前の2019年の調査では、64.7%の企業がクラウドサービスを利用していると答えており、年々右肩上がりでクラウドサービスの利用が増えている。
クラウドサービスの利用状況
広がるクラウドツール、それでも根強いオンプレミスソフトウェア
コロナウイルス蔓延により生活様式が一変した20年10月のトレンドマイクロの調査によると、78%がクラウドサービスを利用していると答えているが、世界全体では87.2%がクラウドサービスを利用しており、全世界の中で最低の順位であることも同時に認識しなければならない。
クラウド利用に関する実態調査 2021
(出典:トレンドマイクロ)
クラウド利用に関する実態調査 2021
(出典:トレンドマイクロ)
では、なぜ日本のクラウド化は遅れているのか。世界的にみても「セキュリティ」の課題は上位に上がるだろうが、それだけではなくオンプレミスが選ばれる根強い理由がある。
それは、「カスタマイズ」と「ITベンダー側の理由」にある。
カスタマイズにおいては、自社の要件に合った仕様にすることを付加価値として販売してきた経緯があることだ。これによりユーザーは独自の習わしをSIerに伝え「システムの企画、設計、開発、運用」を支援してきており、パブリッククラウドには移行ができないことを意味している。それに対してプライベートクラウドを提案はしてみるものの、通信インフラを加算された月額コストが見合わず「今まで通りのオンプレミスで」となる場合が多いのである。
一方で日本のクラウド化を遅らせている理由の最も深刻なのが、ITベンダー側の理由である。なぜなら、カスタマイズも不要なユーザーに対してクラウドツールを提案できるのにITベンダーの都合でオンプレミスを販売するケースがあるからだ。ハードウェアベンダーにとっては、クラウドツールを売っても継続的な課金が徴収できるものの儲からない。
中小企業・小規模事業者を顧客とするハードウェアベンダーには、営業社員・業務社員・メンテナンス社員を抱え、社用車が与えられ、顧客対応に通っている現状があり、自社の経営を中心に考えざる負えないビジネスモデルになっているのである。
事業再構築が必要なのは顧客よりもITベンダー
クラウドツールがますます広がっていくことで、時間や場所に囚われない働き方ができることや、少子高齢化社会を迎えていく中で1人当たりの生産性を上げることができるクラウドツールは、ユーザーの働き方改革に寄与することは間違いない。これを実現するためには、ユーザーに最も近いITベンダーがクラウドツール勧めることにある。
ハードウェアベンダーには自社の収益モデルを見直し、事業再構築を図る必要があるのだが、ソフトウェアを開発しているメーカーや開発ベンダーにもクラウド時代を迎えるにあたって検討を急がなければならないことがある。それはAPI連携についてである。
中小企業・小規模事業者には不要なのか?APIの課題と未来
今までのアプリケーションは、「導入するソフト内で完結するシステム」「導入する会社だけが使うシステム」というのが当たり前だった。ところが、クラウドが広がっていくことにより「より便利に、より生産性を上げるために」という観点でアプリケーション同士を「連携」させることが求められる時代になってきた。ユーザーが求める連携ができないと市場機会を失い、選ばれなくなる可能性が高まってきた。
必要な情報は一つに集約され、重複して入力する必要がない効率化された環境を誰かが作るものではない。守ることばかり考えるよりも、開かれた世界を見通し、デファクト・スタンダードを自らの手で作っていくことが重要な時代に突入したのである。
■執筆者プロフィール

川崎 洋(カワサキ ヒロシ)
ベストプランナー 代表社員 ITコーディネータ
1997年から通信業界に携わり、営業、管理職、経営管理業務で海外出向とジャスダック上場の経験を経て10年に起業。16年に業界初の着信課金システムでビジネスモデル特許を認定。自社で導入していたテレワーク実践が厚生労働大臣から認められ、コロナ渦中に「特別奨励賞」を授与。中小企業のIT参謀として、ITのツールや通信機器を提供。