社会的なDX化風潮の陰で、逆に困っている人はいないだろうか。まず想像できるのは、影響を受けて仕事がなくなるケースだ。例えば、障がい者雇用は、仕事の一部が給与明細書の袋詰め、経費精算の代行処理、名刺制作、印鑑作成などを行っている。それがDX化により給与明細は電子化され、経費精算も自動化、電子契約も主流になりつつある。そのほか、ルーチン化されたデータ入力や電話応対などもDX化に取って代わられる可能性がある。ただでさえ収入が低く、仕事が足りない彼らの業務をDX化によって仕事を奪っている事実がある。
厚生労働省は「障害者雇用促進法」を昭和の時代に定め「誰もがその能力と適性に応じた雇用の場に就き、地域で自立した生活を送ることができるような社会の実現」を目指し、障がい者の雇用対策を総合的に推進している。
同法では労働者の2.3%に該当する障がい者の雇用を企業に義務付けている。43.5人(実質44人)以上の社員がいれば、最低1人は障がい者を雇用しなければならず、難しい場合は納付金を納めなければならない。
雇用したい企業側にも現実的な悩みはある。バリアフリー化、とりわけ車いすで利用できるトイレなどが設備的になく、雇用したくてもできない状況が背景にある。
しかし、インターネットは5Gの時代を迎え、ZoomやMeetで在宅ワークも非常にしやすくなった。これを機会に、改めて障がい者雇用の可能性を考えてみてはいかがだろうか。
今、ESGやSDGsは持続的に成長する社会を形成するために重要なテーマとなっており、ビジネスリーダーにとっては企業の社会的責任を問われることは少なくないだろう。障がい者は能力もやる気もあるが、労働環境に恵まれていない。彼らは減り続ける生産労働人口の対策の一つであるとともに、消費者でもあるということを今一度認識して欲しい。
さて、仕事がなくなる人たちは障がい者ばかりではなく、身近な「ついていけない人たち」も該当する。企業内ではDX化に順応できる集団と、対応できない集団に分かれ、DX化によって実現した個別最適が、全体で見れば不最適となってしまう懸念もある。
どうすれば「DX化によって困る人」を出さずに済むのか。それは「教育」以外にないだろう。昔と違って、コンピュータはかなり簡単に使いこなせるようになった。小学校のプログラミング教育必修化は衝撃的なニュースだったが、逆に捉えるとシステム利用は難易度が下がり、身近になったことを指している。現在は幼稚園や保育園でもプログラミング教育を導入するところが出てきたほどだ。
現在はパソコン操作やデータ分析などに明るくない人たちでも、しっかりとプロが教えれば必ずできる。日常業務をこなしながらの場当たり的な指導で「あの人はできない」と判断するのではなく、正しく「学ぶための時間」を作り、その人のレベル、身の丈にあった「教育」を施すことが、社員満足度の向上、仕事のやりがいアップにつながり、会社基盤の強化につながる。
DX化による分断や片輪走行にならないために「経営×ITによるDX化」と「DX人材教育」をセットで提供しているコンサルタントも少しずつ増えてきたといえる。今後、ESGやSDGsを社会に掲げ、社員に対しても正しく時間を作り、持続的な教育機会を提供することが、大人気企業になる要素の一つとして必要といえそうだ。
■執筆者プロフィール

古澤正章(フルサワ マサノリ)
DX Tokyo 代表取締役 ITコーディネータ
IT系上場企業で北関東エリア支社長、東京エリア支社長などを歴任。卸売、建設、製造、医療福祉など、幅広い業界へ業務改善を実現。各種セミナー講師としても活躍。2022年、DX Tokyoを設立、代表取締役に就任。