DX化を進めるためには、社外の情報より先に社内の情報を知ることが有益である。ビジネスモデルを改革するには、「現在行っている業務プロセスは正しいのか、これがベストか」など、今の仕事に疑問を持つことから始めることが重要となる。現状を知るための方法として、自社の業務プロセス全体図を1枚の大きな紙にざっくりと書き出して、分かりやすく可視化し、整理することから始めることを勧める。これは、実際に筆者が過去280社に実践し、成果を上げた方法だ。
会社の業種や規模、取扱商材や企業文化によって、業務プロセスはさまざまだ。実際に書き出してみると、意外に手作業が多かったり、または知っている情報が古かったりと、ギャップに気付く。業務プロセスの全体図がある程度整ったら、次は定量的な計測データを集める。それぞれの社員が一体何に時間を掛けているのかヒアリングして、場合によってはストップウォッチを持たせ、時間を計測、データ化から実施してみることもいいだろう。
そのほか、プロセスごとの回数や件数、やり取りに掛かる往復の回数や、ミスの件数などを数えて、全体の大きな紙に追記。このようにお金を掛けず、集計・平均化、数値化するだけでも、DXの入り口としては十分な対応だ。
まとめて見て「この作業にこんなに時間掛かっていたのか」と発見できるほか、「これは本当に必要か、この資料は本当に活用しているのか」といった疑問が出てくる。また、「5年後も同じでいいか、工夫は必要ないか」など、定性的な業務プロセスと定量的な数値を基に、じっくりと見ていく。例えていうなら、「人間ドックの法人版を実施する」ということだ。その上で、変革によりメリットを享受しやすいボトルネックを特定し、身の丈に合った優先順位とスピード感で少しずつ、確実に対応していくことが必要となる。
また、既存の契約している有償ソフトは100%使いこなしているのか、と疑問を持ってもいいかもしれない。例えば、市販のパッケージソフトについて、実際は全体機能の半分も使われていないというケースがある。
新規導入時、インストラクターなどの教育指導に従って利用されていると思うが、多くの場合、それは時間と回数が限られており、全ての機能を紹介されるわけではない。受ける側の自社担当者も、業務変更の対応に手一杯で、基本操作を慣れたころにはインストラクターを頼むのが別料金となり、応用操作を教えてもらう機会は喪失されるという事態が発生する。
一部のパッケージソフトには、自分に合ったメニューやUIが作れる機能や、各ショートカットメニュー、独自の帳票作成など、裏技的な便利機能が備わっている場合がある。また、システム導入後に機能向上されメニューが増えている場合もある。
「パッケージソフトを100%使い倒す」という考えで、改めて最新版のマニュアルを手に入れて、じっくりと読んでみることで、お金を掛けずに効率化できる可能性を秘めているのだ。DX化に向けて「何を買えばよいのだろう」と考えるのではなく、まずは社内に目を向けて、できるところから始めてもいいのではないだろうか。
最後に、DXは皆で楽しく取り組むことが大切である。DX責任者などの誰か独りだけが悩みながら実施するものではない。お金と責任を渡されて、「何か買わなきゃ」「効果を出さなきゃ」と追い込まれてはいけない。
お金を掛けなくても、社内で導入しているソフトで実現できることは多くある。DX化を進めるための事前準備で、思わぬ発見や効率化を図ることもできる。不要な会議資料をなくしたり、未利用のソフト機能を使ってみたり、インストール済みのGoogle無料アプリを試してみたりと、それだけで小さな一歩が踏み出せて、効果を実感することもできる。
「将来こんな風になれば凄く良いよね、楽しいよね」といった雰囲気で、社内全体で楽しく取り組む――。社員の不満は、無意味な作業や不要な資料の作成など、社内の業務プロセスに潜んでいることも少なくない。DX推進の力で非効率箇所を特定・改善することがDX化につながるといえる。
■執筆者プロフィール

古澤正章(フルサワ マサノリ)
DX Tokyo 代表取締役 ITコーディネータ
IT系上場企業で北関東エリア支社長、東京エリア支社長などを歴任。卸売、建設、製造、医療福祉等、幅広い業界へ業務改善を実現。各種セミナー講師としても活躍。2022年、DX Tokyoを設立、代表取締役に就任。