社内にDXを正しく理解している従業員が少ないと、DXがうまくいかない傾向が高い。特に誤った認識として目立つのは、「DX=デジタル化」である。ただデジタル化しただけではDXとはいえず、30年前に流行したBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)と大差ない。BPRは「業務の本来の目的に向かって、既存の組織や制度を抜本的に見直し、プロセスの視点で、職務、業務フロー、管理機構、情報システムをデザインし直す(リエンジニアリング)という考え方」だ。DXとはどう違うのだろうか。
「令和3年度版 情報通信白書」によると、DXは「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」と定義されている。「顧客・市場の破壊的な変化に対応」「組織・文化・従業員の変革を牽引」「ITを利用してネットとリアルの両面での顧客経験の変革」の3本を整え、その上で「新しい製品・サービス・ビジネスモデルで競争上の優位性を確立する」ことが求められているのだ。
顧客・市場の破壊的な変化に対応がマーケティングの話、組織・文化・従業員の変革を牽引が人材・組織の話、IT利用してネットとリアルの両面での顧客経験の変革が顧客経験の話、新しい製品・サービス・ビジネスモデルで競争上の優位性を確立がビジネスモデルの変更することになる。DXは一つを指しているのではなく、この四つを意味している。マーケティング、人材・組織、顧客経験の三つを同時に着手し、ビジネスモデルを変えていかなければDXを起こすことはできないというわけだ。
BPRとDXの違い
BPRは同じビジネスモデルのままでもいいからシステムを使って効率化・省力化の実現がコンセプトだが、DXはITの活用を通じて新しいビジネスモデルを確立することが求められている。DXは顧客のためにビジネスモデルも変えて、価値を創造する必要がある。欧米はBPRを続けてきた結果、DXによってビジネスモデルの変革を実現できるが、日本はBPRを見ないふりをしてきたため、DXがうまくいかないのである。
また、BPRをDXと名前を変えて売っているITベンダーもいる。そのため、ユーザー企業は誤って認識している可能性も秘めている。DXの導入事例も、DXと呼べないものも多々ある。デジタル化にはなっているかもしれないが、DXはトランスフォーメーションしなければならないので、ただデジタル化すればいいものではないのだ。BtoCなら顧客が楽しくなるような展開、BtoBなら相手の売り上げも増えることを意識してDXを行っているのかどうかを判断していかなければならない。自社が楽になるだけではBPR。この違いをしっかりと見極めて、ユーザー企業に提案することが重要だ。ユーザー企業がDXを望んでいたとしても、必要なのがBPRだとすれば、まずはBPRから取り組むことが選択肢ということだ。
■執筆者プロフィール

並木将央(ナミキ マサオ)
ロードフロンティア 代表取締役社長 ITコーディネータ
1975年12月31日生まれ。経営と技術の両面の知識でDXに精通、現在の世情や人間観をも背景としたマーケティング、経営手法や理論の活用方法で、企業や各大学で講演や講義を行っている。さまざまな分野で経営やビジネスのコンサルティングを実施している。電気工学修士、MBA、中小企業診断士、AI・IoT普及推進協会AIMC、日本コンサルタント協会認定MBCなどの資格も持つ。