日本は世界的にみるとDXがかなり遅れている。「令和3年版 国土交通白書」にも日本でDXがうまくいっていないと書かれている。スイスのビジネススクール国際経営開発研究所(IMD)が発表している世界デジタル競争力ランキングによると、日本は調査対象国63カ国中27位で、主要先進7カ国中6位とのことである。このランキングは、デジタル技術の利活用能力を知識、技術、将来への準備の3項目で評価しているが、その中の個別項目である「国際経験」、「機会と脅威」、「企業の機敏性」、「ビッグデータの活用と分析」において、日本は63カ国中63位と最下位のようだ。
主要先進7カ国の世界デジタル競争ランキング
(出典:国土交通省)
なぜ日本は世界的にみてDXがうまくいかないだろうか。そもそもDXは、「ITを活用して新しいビジネスモデルを確立する」ことである。日本は既にビジネス基盤が出来上がっているため、先進国のようにビジネスモデルを変えることが難しくDXがうまくいかないともいえる。大きな理由の背景として三つが挙げられる。
DXに協力しても給与が上がらない
問題は日本の給与制度にある。日本は「労働時間」が労働力となるケースが多く、時間内で最低限の作業をしていれば良いと考え、従業員がDXに協力しようとしない。DX推進部などと名付けたとしても、成果の有無に関係なく給与が支給されるため、他国と比べると必死さが異なり、モチベーションが低くなる。
また、欧米は役に立たなければレイオフ(解雇)できるが、日本の雇用制度ではそうはいかない。役に立たなかろうが、立とうが給与は一定数を与えなければならないということは、頑張らないである程度の給与をもらえた方が得と考える人が多くなっても仕方ないのではないだろうか。
ITの速度に追い付いていけていないため、人間がボトルネック
ITは人間の処理速度を遥かに超え、人間でストップがかかる、つまり、人間がボトルネックになっているという状態が日本ではインターネットが普及してきた時代あたりから起きている。インターネットが普及する前と後では仕事のスピードはずっと速くなっている。
固定電話しかなかった時代は、(1)電話をかける、(2)先方不在、(3)煙草休憩、(4)折り返し電話あり、(5)こちらから折り返す、といった具合だった。しかし、携帯電話が普及すれば、相手がどこにいようが捕まえることが可能であり、メールやメッセージアプリでは、自分の都合がいいときに用件を残すことができる。24時間いつでも送れるため、営業時間内でなくても、用件を入れることが可能である。
仕事に待ちがなく、他社とのやりとりもインターネットが普及する前より高速化する。ITによって仕事は高速化していて、人間が常に待たせている、人間が足を引っ張っているのだ。
人口減少で一人当たりの仕事の負担が増えている
日本は人口が減少しても、他国のように移民を積極的に迎え入れようとはしない国民性である。だからこそ、社員が辞めても補充できないとなると、一人当たりの負担は増える一方だ。やり方を変えたくても、変えるためには時間や気力を有する。既に忙しすぎて疲弊している従業員に、新しい仕組みづくりを強いるのは酷な話である。
また、30年前の日本は春闘やベア、ストライキがまだ行っていた時期である。例えば、社内の反対を受けて自社に合わせて独自システムを作り上げてしまい、継続的なアップデートができないままシステムの老朽化を迎えている。継続的にBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を実施せずに人海戦術で切り抜けてきた企業が、今になってDXをしたがっているのである。欧米はBPRを続けてきた結果、DXを迎えているので、変化の差分はまだ少ないというわけだ。
■執筆者プロフィール

並木将央(ナミキ マサオ)
ロードフロンティア 代表取締役社長 ITコーディネータ
1975年12月31日生まれ。経営と技術の両面の知識でDXに精通、現在の世情や人間観をも背景としたマーケティング、経営手法や理論の活用方法で、企業や各大学で講演や講義を行っている。さまざまな分野で経営やビジネスのコンサルティングを実施している。電気工学修士、MBA、中小企業診断士、AI・IoT普及推進協会AIMC、日本コンサルタント協会認定MBCなどの資格も持つ。