NTTデータと日本総合研究所の折半出資のJSOLは、「強みとする領域でナンバーワンを目指す」経営方針を打ち出す。コンピューターによるシミュレーションや数理技術を駆使して製品設計を支援するCAEや、基幹系のシステム構築で強みを持っている。近年は電気自動車のモーターをデジタル空間で設計するデジタルツインの需要が高まっており、独自開発するCAEソフト「JMAG」の引き合いが増えている。他にも理化学研究所が運用するスーパーコンピューター「富岳」を活用した科学技術計算の受託などを重点ビジネスに位置付ける。
(安藤章司)
永井健志 社長
高効率なモーターは電気自動車の性能を決定づける重要な要素で、世界中の自動車メーカーが開発にしのぎを削っている。試作品を物理的に作っていては時間がかかるため、あらかたの性能シミュレーションをデジタル空間で行うデジタルツインの開発手法が広がっており、そのツールとしてJMAGへの引き合いが増えている。永井健志社長は、「ここ数年は海外メーカーからの引き合いも増えており、電気自動車のモーターの開発をきっかけに海外でのシェア拡大に弾みをつける」と意気込む。
富岳を活用したビジネスでは、例えば新型コロナウイルスの室内での飛沫状況をシミュレーションし、その結果をもとにオフィスの効果的な換気や、感染しにくい人の居場所の設計に役立てている。理研では国内産業の強靱化、競争力を高めるためにスパコンの民間活用を推進しており、これを受けてJSOLでは2020年に理研などと合弁で理研数理を設立。遠隔地からスパコンを操作するエミュレーターや科学技術計算のビジネスに取り組んでいる。スパコンを使って創薬や航空機や自動車の流体力学に基づく設計といったビジネスを強みの一つとして伸ばしていく。
今年6月15日付でNTTデータの執行役員で中国・APAC事業本部長からJSOLトップに着任した永井社長は、長年にわたって財務省が所轄する関税関連システム「NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)」の開発に従事。ベトナムやミャンマーに駐在しNACCSの仕組みを両国に輸出するビジネスを手がけた実績もあることから、NTTデータ内では“ミスターNACCS”と呼ばれるほど精通している。ソフトウェアやシステムの海外輸出の経験を生かし、JMAGをはじめとする自社ソフト・サービス商材の海外展開を加速させていく考えだ。
永井社長は、「自社の技術力と人材、顧客のニーズが重なったところが“強み”として伸びる」とし、この「強み」をより伸ばす方向へ経営の舵を切っていく。既存顧客の深掘りや新規顧客の開拓、これまで手つかずだった新しい市場への進出に際しても、強みを前面に押し出して「JSOLならではの存在感を発揮していく」と力を込める。
JSOLの22年3月期の連結売上高は411億円、営業利益率11.3%だったのに対して、26年3月期までの4カ年中期経営計画では、強みとする領域を重点的に伸ばすことで売上高500億円、営業利益10%を目標に据える。
同社は元請け比率95%で大口顧客を擁し、基幹系のシステム構築を多数手掛けてきた。中計では既存顧客との関係を深めつつ、株主であるNTTデータや三井住友フィナンシャルグループとの協業による新規顧客の開拓にも力を入れる。従業員についても海外展開を含む事業成長に伴う採用の強化によって、現在の約1200人から1400人への拡充を視野に入れる。