ERPの運用保守をしていく上で重要なポイントとは何か。18年近くERPの保守運用に携わってきた経験を踏まえ、必要な四つのことについて解説する。
本番稼働はゴールではなくスタート
辛く苦しいERP導入プロジェクトを経てようやく本番稼働にこぎつけたとしても、それで終わりではない。そこからどのように運用保守をしていくかがそのシステムの出来を大きく左右する。特に本番稼働時点のシステムは赤ちゃんのようなもので、手厚いお守りが必要である。
システムを企業にとって、ユーザーにとって、より良いものにし、長く使っていくために、運用保守はとても重要である。どれくらい予算を取って、どのような体制で取り組むのかは本番稼働前から予め計画しておく必要がある。
導入から運用へのスムーズな体制移行
本番稼働後の初期流動時期はさまざまなトラブルが発生する。これが落ち着くまでは導入プロジェクトメンバーも残って対応するが、落ち着くかどうかくらいのタイミングで契約や任期が終了となり、プロジェクトメンバーが離散してしまう。その際、運用保守の担当者としっかり引継ぎを行っておかないと、そのシステムをあまり知らない担当者による非効率な運用保守が始まってしまう。
運用保守の初期段階では、できれば導入プロジェクトメンバーのキーパーソンを運用保守の体制にも引き入れて、スムーズな体制移行を行うのが望ましい。
システムを育てるための十分な予算
運用保守にかかるコストは、ソフトウェアの保守料と担当者の人件費である。保守料がベンダーとの契約で決まっているため、企業が決められるのは「運用保守の人件費をいくら使うか」である。経営者にしてみれば「ERPパッケージを購入した」という感覚があるので、本番稼働後の保守運用にそんなにコストがかかるのはおかしいと考えるかもしれない。
しかしシステムは企業と同じく生き物であるので、環境の変化やビジネスの変化に柔軟に対応していかなければならない。そのために「システムを育てる」コストが絶対に必要なのである。IT部門の責任者はこのことを経営層に説得し、十分な予算を確保しなければならない。
バージョンアップは計画的に
ひと昔前のERPは、一度導入したらカスタマイズやアドオンが多すぎて二度とバージョンアップできない、またはやろうとすると導入時と同じくらい費用が発生するなどアンタッチャブルなものであったが、近年はアーキテクチャの改良などもありバージョンアップに対するハードルは下がっている。しかもWebが当たり前の時代では、サーバーOS、クライアントOS、ブラウザ、データベースなど様々な部分で頻繁にバージョンアップが行われ、ERPパッケージもそれについて行かないとあっという間に陳腐化してしまう。
例えば、仮にサーバーOSの保守が切れていた場合、万が一そのサーバーがハードウェア故障で使えなくなってしまうと、同じOSの代替機をすぐに手配することができない。また、クラウドの場合、データベースが期間を区切って自動的にバージョンアップされてしまうことがある。この時、ERPが古いバージョンのままだと、新しいデータベースに対応できず使えなくなってしまう。このような過ちを起こさないためにも、OSやデータベースのバージョンアップと合わせて、ERPパッケージ自体のバージョンアップも計画的に行っていく必要がある。
■執筆者プロフィール

寺坂茂利(テラサカ シゲトシ)
JJC 代表 ITコーディネータ
監査法人で監査業務に従事した後、外資系ERPベンダーに転職。2000年に独立し、ERPの導入、開発、運用を支援するJJCを設立し、現在に至る。公認会計士でもある。